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妖女学園のこくりちゃん  作者: こんぐま
第5話 トイレで始まるラブロマンス
33/61

3時間目 隣り合わせのフラワーガール(1)

 生徒たちが寝静まった深夜の通学路。

 こくりとみっちゃんは一仕事終えて歩いていた。

 二人の背後では、お狐さまがフヨフヨと漂っている。


 こんな時間にこんな場所を歩いているのは、もちろんさっきまで妖の変態を退治していたからだ。

 そう、あのリコぺろとか言う妖は、間違いなく変態だった。


 さて、それはそれとして、二人が仲良く芍薬しゃくやく寮に向かっていると、誰かが近づいて来る気配を感じた。

 それに気がつくと、こくりはみっちゃんの手を繋いで引っ張って、近くにあった木の影に隠れる。

 すると、こくりたちが歩いていた道を、芍薬寮の寮長先生である寺雛井じひない先生と、その寮に住む美海みみお姉さまが慌てた様子で通り過ぎて行った。


「じひなんとみみぽんです」


「え? 今何て……?」


「じひなんとみみぽんです」


「あ、うん。じひな……って、それより何かあったのかな?」


「怪しいな。それに美海からは、わずかだがあやかしの妖気を感じた」


「え!? じゃあ、みみぽ……っじゃなくて、みみお姉さまって人は妖なの!?」


「違います。多分、妖に触れて、それでちょっと付いちゃっただけです」


「触ると付くんだ……あれ? じゃあ、わたしにもグマ子とかお狐さまの妖気がついてるの?」


「そうだな。と言っても、美都子みつこの場合はわしのお守りがある。グマ子の妖気より、圧倒的に儂の神力の方が外にれておるわ」


「そうなんだあ。って、じゃあ、二人に何かあったのかな?」


「分からぬが、あの様子を考えると、妖に襲われているかもしれんな」


「そんな! それじゃあ助けないと! こくりちゃ――あれ? こくりちゃん……?」


狐栗こくりなら、もうとっくに追いかけて行ったぞ」


「――あ! ほんとだ! こくりちゃん待ってよー!」


「やれやれ」


 いつの間にか、寺雛井先生改め“じひなん”と、美海お姉さま改め“みみぽん”を、追いかけていたこくり。

 そんなこくりを追いかけて、みっちゃんは走り出し、お狐さまもその後を追った。

 そうして辿り着いたのは、もちろん事件が起きた旧校舎だった。


 既に24時はとっくに過ぎている闇に包まれた時間だからか、その不気味さはかなりのもの。

 空は晴れていて星の光や月の光が照らしてくれてはいるが、それだけでは心許ないのは言うまでもない。


 旧校舎に辿り着くと、みっちゃんは恐怖をまぎらわすように、先に辿り着いていたこくりの腕を掴んで抱きしめた。


「こくりちゃん、寺雛井先生と美海お姉さまはどこ行ったの?」


「旧校舎の中に入って行きました」


「じゃあ、やっぱり何かあったんだよ。やだなあ」


「こくりがいるから平気です」


「きゃー! こくりちゃんかっこいー!」


 相変わらずの眠気眼な無表情だが、その瞳に宿る自信はかなりのもの。

 メリハリのない声色も淡々としているが、その変わらなさがかっこいいと感じて、みっちゃんは黄色い声を上げて抱き付く力を強める。

 こくりは「行きます」と言って歩き始めた。


 旧校舎の中は当然と言えば当然だが、シンと静まり返っていた。

 足音一つも聞こえず、先にここに来ている筈のじひなんとみみぽんの気配は全く無い。

 あるのは不気味さだけで、みっちゃんは慌てた様子の二人を思い出して、それがきっかけで怖くなって瞳をうるませた。

 するとそんな時だ。


「わあああああああああああああああ!!」


 突然聞こえた悲鳴。

 恐らく声の感じからするに寺雛井先生。

 寺雛井先生の悲鳴が、遠くの方から聞こえてきたのだ。


「い、今の声、寺雛井先生だよね!?」


「じひなんの声です。急ぐです」


「そうだな。行くぞ、美都子」


「う、うん」


 悲鳴の聞こえた方へと走り出し、ついでに、こくりは走りながら“燐火りんか”の炎を灯す。

 すると出現するのは、燐火印でお馴染みのモフモフ狐尻尾。

 青白く炎を揺らめかせ、こくりのお尻から生えるモフモフの化身。

 それは見れば見る程ご立派なモフモフで、思わず触りたくなってしまう。

 しかし、残念ながらモフモフはボウボウと燃える燐火。

 触れる事なんて出来ないので、完全なる観賞用だ。


 そんなモッフルな尻尾を生やしたこくりは、狐耳のカチューシャもピクリとさせて、眠気眼な無表情で何かをとらえる。

 そして、勢いよく燐火を放った。


「――っきゃ」


 みっちゃんが小さな悲鳴を上げて、その目に映ったのは、数十メートル先で真っ赤な紐に足を絡め取られていたみみぽん。

 そこはトイレの目の前で、トイレの中から真っ赤な紐が地面を這うように伸びている。


 この電気も付いていない真っ暗な暗闇の中、こくりは数十メートル先で襲われていたみみぽんを助け出した。

 そして、みっちゃんを置いてあっという間にその場に駆けつけ、燐火の炎で焼き千切れた真っ赤な紐を手に取った。 

 するとその直後、真っ赤な紐に燐火の炎が移り、一気に燃え広がる。

 そして――


「きゃあああああああああああ!」


 ――聞こえてきたのは女の声。

 その声はおぞましい声色で、聞いただけで妖だと分かる声だった。

 しかし、まだ終わってない。


 燐火の炎で全身が燃えている妖かが現れて、こくりに向かって土下座した!

 土下座したのだ!


「この青いの消して下さい!」


「嫌です」


「お願いします! なんでもしますから!」


「なら良いです」


 こくりが燐火を消し、焼き土下座していた妖が顔を上げる。

 すると、妖は可愛らしい顔の女の子だった。

 但し、全身が真っ黒焦げである。

 そして、まだまだ終わっていなかった。


「嘘でーす! 何もしてあげませーん!」


 女の子はゲラゲラと笑いながら立ち上がり、バックステップする。

 そして、それをミスって足を変な角度で曲げて転がって、床の上でうずくまり、こくりを睨む。


「よくもやったな! 絶対に許さない!」


「今のは自爆で逆恨みだよ!」


 こうして、みっちゃんのツッコミが炸裂さくれつし、謎の黒焦げ少女な妖との戦いが始まった。

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