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妖女学園のこくりちゃん  作者: こんぐま
第5話 トイレで始まるラブロマンス
32/61

2時間目 事件はトイレで起きている(2)

 旧校舎で季節外れの肝試しを開始してからしばらくが経つ。

 四人はそれぞれ“数樹すじゅ”“瑠璃るり”“桜花おうか”“美海みみ”と言う名の中等部の三年生。

 旧校舎の中を随分と歩き回った少女たちは、そろそろ切り上げようと話し合っていた。


「美術室も何も無し……か~。期待してたのにな~。学園の七不思議」


「ふふふ。瑠璃さんはオカルトに興味があるの?」


「オカルトと言うか、恐怖体験に興味あるのよ」


「ええー。趣味が悪いわよ」


「むー。失礼ねえ。美海はただ怖いだけでしょ?」


「こらこら。喧嘩しないの。それより、眠くなってきたし、後片付けして帰って寝たいわ」


「そうね。ごめんね、美海」


「瑠璃さん……。私の方こそごめんなさい」


 瑠璃と美海が微笑み合い、それを見て、数樹と桜花も微笑んだ。

 と、そこで数樹が少しだけソワソワしだす。


「あの、私お手洗いに行きたいのだけど、どなたか一緒に来ていただいても……」


「トイレなら私も一緒に行くよ。実はちょっと我慢しててさ~」


「まあ。そうだったの?」


「本当は瑠璃さんも少し怖かったのでしょう?」


「あれ? バレちゃった?」


 美海がイタズラっぽく尋ねると、それを冗談ぽく返す瑠璃。

 そして、二人は顔を見合わせて笑い合った。


「ふふふ。仲が良いわね。桜花さんと美海さんも一緒に来る?」


「もちろんご一緒するわよ」


「私も一人で取り残されるのは怖いので行くわ」


 全員の意見が一致した所で、四人はトイレへと向かって歩き出した。


「そう言えばさ、学園の七不思議の一つに“開かずのトイレ”って無かったっけ?」


「あったわね。でも、確かアレは昔起きた地震で扉がズレて、それで開かなくなったと聞いた事があるわ」


「まあ。数樹さん、お詳しいのね」


「たまたまよ、桜花さん。うちの寮にこくりさんって子がいるでしょう? あの子、オカルト関係の話に詳しいの。私はそれを聞いただけよ」


「ああ~。こくりちゃん。あの子可愛いわよねえ。たまに食堂で見かけるけど、いつも眠たそうなお顔をしてるわ」


「へえ、こくりちゃんかあ。我等が牡丹ぼたん寮にも噂されるくらいに有名な子だよね? 桜花」


「そうね。狐耳のカチューシャをいつも付けてる不思議な子と言われてるわねえ」


「そうそう。妖女って校則が緩いけど、あそこまで堂々と狐のコスプレする子はあの子くらいだよね」


「あれってコスプレなのかしら?」


「そうじゃないの? 知らんけど。って、あ。やっぱ数樹と美海は同じ芍薬寮だから、結構あの子と話とかするの?」


「私はそこまででは無いけれど、数樹さんは仲がよろしいわよ」


「おお。で? 実際はどんな感じの子なの?」


「ふふふ。噂よりもっと可愛い子よ。夏休み前くらいにお友達が出来て、最近はよくその子と遊んでるわねえ」


「へえ。じゃあさ、その子も変わってたりコスプレしたりしてるの?」


「全然そんな事無いわね。どちらかと言うと、保護者と言う感じのしっかり者だったわ。初等部の一年と言っていたし、こくりさんを妹みたいに可愛がっているのではないかしら?」


「なにそれエモい」


「分かるわあ。あの二人、見ていると心がなごむのよねえ。でも、エモいと言うよりは尊いと言う言葉が似合うわ」


「まあ。私も見てみたいわねえ」


 四人の少女たちはここにはいないこくりとみっちゃんの話で盛り上がる。

 そうして、あっという間にトイレの前までやって来て、四人は少し緊張した面持ちで中に入って行った。

 そして、中に入った瞬間だった。


 このトイレは、全部で三つの個室があるのだが、その内の真ん中の個室からスルスルと血のように赤い紐が伸びてきたのだ。

 そして、それは床をう蛇のようにして伸びてきたため、暗いと言うのもあって四人は気づかない。


「――きゃあああああああ!」


 突然聞こえた一人の悲鳴。

 そしてその声は、数樹のもの。


 他の三人はその声に驚き、瑠璃は腰を抜かしてその場に尻餅をつき、桜花はパニックを起こしてトイレの壁にぶつかって気絶する。

 美海だけが紐に引っ張られる数樹の姿を見つけて、助けようと手を伸ばしたが叶わず、ズルズルと扉に吸い込まれていく姿を見てしまった。

 そしてその時の数樹の姿は、口元を紐でグルグル巻きにされ喋れ無くされて、何故か亀甲縛りをされている姿だったのだ。


「数樹さん! 数樹さん!」


「んんんんんん!! んん! んんん……っ!」


 扉の向こうで何が起きているのか、聞こえてくるのは数樹の嫌がる声。

 そして――


「わあ。久しぶりの可愛くて美味しそうな子~。嬉しいなあ」


 ――おぞましい誰かの声。

 扉の向こうから聞こえるそれは、この世の者とは思えない声色の女の声で、美海は恐怖で後退ると頭の中が真っ白になった。

 しかも、美海は見てしまっていた。

 いや、正確には見ていない。


 数樹が亀甲縛りで縛られて個室に引きずり込まれる時、間違いなくそこには誰もいなかった。

 それなのに、数樹ではない誰かの声が聞こえた。

 美海が恐怖で頭を真っ白にさせてもおかしくは無い怪奇現象が、目の前で起こっている。


「み、美海。ごめん。わた、私……怖……くて、うご、動けな……い。だ、誰か……呼んで来て? おね……お願い。お願い! 数樹を助けないと! お願い!」


「――っ直ぐ戻ってくるわ!」


 瑠璃の言葉で正気を取り戻して、美海は助けを呼ぶ為に駆けだした。

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