1時間目 事件はトイレで起きている(1)
この世に蔓延る怪奇な現象。
人々の心から忘れ去られていく“おばけ”や“幽霊”や“妖怪”の類。
それ等が詰まったこの世の不思議は、
時が経つにつれ薄まっていく。
だが、そんな不思議が今でも集まる場所がある。
それが、世界に名だたる名門女子校【私立妖花威徳女学園】。
幼稚舎から大学までエスカレート式に通える少女達の学び舎。
“妖花”や“威徳”などと言う可笑しく奇怪な名の学園ではあるが、
設立当時はこの名前が【徳女】と略されて話題となり、
徳を積む事の出来る学園として、名家のお嬢様方からの注目を集め、
今では名門と呼ばれる学園となった。
しかし、時が経ち、今では若者たちから【妖女】と呼ばれ、
その名に釣られた一部マニア達からも一目置かれた乙女の園。
この物語は、そんな可笑しな名の学園に通う幼女『狐栗』の、
奇妙で不思議な妖が満載な物語である。
◇
この物語の主人公狐火狐栗が住む芍薬寮には、打田数樹と言う名の少女が住んでいる。
少女は中等部三年の生徒であるが、この妖女学園はエスカレート式の学園。
高校にあたる高等部へ行く為の受験勉強はする必要があまりなく、今の成績を保てていれば、問題無く高等部への入学が可能だった。
そんな気の緩みからか、少女は友人達とやってはならない事に手を出してしまった。
やってはならない事、それは…………。
「「かんぱーい!」」
「ふふふ。皆さん、私の為に集まってくれてありがとう」
「いいのいいの。FPSだっけ? インターネットの大会で優勝したんでしょ? これを祝わずして、数樹の友達って言えないじゃーん」
「ええ。瑠璃さんの仰る通りよ。数樹さんを祝うのは私達の義務だわ」
「そうそう。瑠璃さんと桜花さんもこう言ってるのだし、今日はたっぷりお祝いさせてね」
「瑠璃さん、桜花さん、美海さん……。皆さん、本当にありがとう。嬉しいわ」
「それじゃあ気を取り直して~」
「「かんぱ~い!」」
ここは、旧校舎のとある教室。
時刻は21時と、それなりに遅い時間。
すっかり空も暗くなって暫らく経つこんな時間に、FPSの大会に優勝した数樹を祝う為に、三人の友達が集まっていた。
そんな少女たちだが、数樹を含めて全員が中等部の三年生で、全員お嬢さまである。
しかし、瑠璃と呼ばれた少女を中心に、同学年の生徒たちからは結構有名な素行の悪いグループだ。
と言っても、こんな時間に集まってはいるが、不良と言うわけでは無い。
単純に他のお嬢様と比べて、少々それらしくないと言うだけの事。
こうして今祝杯をあげてはいるが、その中身は香りの良いハーブティー。
机に手作りのクッキーやパウンドケーキを並べて、夜遅くのお茶会を開いているだけと言うもの。
とは言え、お嬢様たちからすれば十分な不良行為。
夜分にお茶会など、素行の悪い以外何ものでも無い。
この程度の事で、少々……いや。かなり大袈裟だと思うかもしれないが、世間の目は厳しいもの。
もしバレてしまえば、他の生徒たちには不良と思われ、生徒指導室に呼ばれて先生に怒られてしまうだろう。
だから、こうしてわざわざ人気の無い旧校舎に集まって、隠れてお祝いをしているのだ。
さて、そんな少しこの学園の生徒として外れた四人。
お茶会を楽しんで時間が過ぎていき、夜も深まった深夜の時間。
グループの中心である瑠璃が、深夜のテンションで良からぬ事を考えた。
「ねえねえ。今から季節外れの肝試ししようよ」
「肝試し? 私、怖いわ」
「そうねえ。少し楽しそう。私は参加しようかしら」
「美海は不参加で、桜花は参加。数樹はどうする?」
「せっかくのお誘いだし、私も参加するわ」
「決まり!」
「まあ!? 私だけ参加しないと言う事は、ここに一人で残れと言う事なの!?」
「ふふふ。そうなるわね」
「もう! 数樹さんってば。笑い事じゃないわよ。それなら私も参加するわ!」
「全員参加決定~! それじゃあ、早速出発しましょ! まずは学園の七不思議の一つ“動く人体模型”は本当にいるのか!? 楽しくなってきた!」
「瑠璃さんは相変わらずに元気ね~」
「本当よ。はあ……。気が重いわ」
「ふふふ。美海さん、元気を出して? せっかくなのだから楽しみましょう」
こうして、四人の少女たちは旧校舎にて、季節外れの肝試しを開始した。




