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妖女学園のこくりちゃん  作者: こんぐま
第4話 残暑のメロディー
30/61

9時間目 ホラーは突然やって来る(4)

 音楽室に現れた少女は、一見ただの小五女子にしか見えない。

 しかし、この少女こそが学園の七不思議の一つ“独りでに鳴るリコーダー”の正体で、あやかしの変異体だった。


 以前発見出来なかったのは、出現の条件を満たしていなかったから。

 そしてその条件と言うのは、音楽室に忘れ去られたリコーダーだった。

 お狐さまはその事に気がついて、みっちゃんのリコーダーを餌にして、音楽室に仕掛けたのだ。


 こくりが“燐火りんか”で出したモッフモフな狐尻尾を揺らめかせ、妖との間合いをジリジリと詰めていく。

 すると、妖はリコーダーを机に置き、よだれを垂らした。


「見つかってしまっては仕方が無い。アタイは“好きな女の子のリコーダーを舐めたいと言う欲”から生まれた妖、リコーダーぺろぺろ。リコぺろと呼んで頂戴」


「立派な名前です」


「全然立派じゃないよ! そんな名前でいいの!?」


「てへぺろみたいで可愛い名前だと思ってるけど?」


「全然違う!」


「がーん……っ」


 みっちゃんのツッコミが炸裂さくれつし、リコぺろがセルフ“ガーン”を口にしてショックを受ける。

 すると、こくりが真剣な面持ちではなく相変わらずの眠気眼な無表情で、みっちゃんに視線を向けた。


「てへぺろって何ですか?」


「ネタが古いし気にしなくていいよ」


「分かりました」


 何故みっちゃんがその古いネタを知っているのかは謎だが、そんな事、今はどうでも良い事。

 みっちゃんの言葉を聞いて、お狐さまが頷いた。


「なるほどな。分かったぞ。古いネタを知っておると言う事は、奴は相当長い時代の中で、この音楽室でリコーダーを舐めていたのじゃ!」


「凄くどうでもいい!」


 とてつもなく凄まじいコンボ。

 やはり、精神攻撃は基本。

 ネタが古いと言われ、更にはどうでもいいとまで言われ、リコぺろの心はズタズタだった。


 リコぺろはがっくりと項垂れて、完璧な戦意喪失。

 最初からそんなものは無かったようにも思えるが、とにかく戦意喪失してしまった。

 そして、そんなリコぺろにこくりは容赦なかった。


「今です。変態は焼却です」


 放たれるは燐火の球。

 青白く燃える球を受けて、リコぺろの体は一瞬で燃え上がった。


「きゃああああああ!」


 燃えるリコぺらは悲鳴を上げ、そして、もだえ苦し――――まない。

 悲鳴を上げたと思ったら、何やら興奮したような視線をこくりに向けて、とっても気持ち悪い笑みを浮かべた。


「もう一回! もう一回さっきの言葉を聞かせて!?」


「変態は焼却です」


「焼却の部分をのぞいて後二回!」


「変態、変態です」


「ありがとうございますー!」


「え? 何これ? わたし、今何を見せられてるの?」


「とんでもねえ変態です」


「はああああ! 幸せえええ!」


「…………ひぇ」


 リコぺろは恍惚こうこつとした笑みを浮かべながら、天に召されていった。

 音楽室に残ったのはこくりとお狐さま、そして、顔を真っ青にしたみっちゃん。


 みっちゃんはリコぺろのよだれでべっちゃべちゃになったリコーダーを見て、おき上げしてもらおうと心の底から思った。


 こうして、みっちゃんはまた一つ大人になり、無事? に学園の七不思議の一つ“独りでに鳴るリコーダー”を解決したわけだが、二人と一匹はまだ知らない。

 同じこの時間に、前代未聞の大事件が起きてしまっている事を……。







 こくり達が“独りでに鳴るリコーダー”を解決したのと同時刻。

 芍薬しゃくやく寮の寮長先生である寺雛井じひない先生の許に、中等部の生徒が慌てた様子でやって来て、呼び出しのベルを何度も押して騒いでいた。


「寺雛井先生! 大変です! 寺雛井先生! 寺雛井先生!」


「なんだよ? 騒々しいなあ。って、美海みみか。何なんだ~? ったく。今何時だと思って――」


「先生! 数樹すじゅさんが! 数樹さんが!」


「――っんん? 数樹がどうかしたのか?」


「数樹さんが、数樹さんが初等部の旧校舎のトイレで、亀甲縛り(・・・・)にされて閉じ込められてしまったんです!」


「…………は?」


 前代未聞の大事件。

 それは、新たなる変態事件の幕開けだった!

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