6時間目 ホラーは突然やって来る(1)
「え? わたしのリコーダーを借りたい?」
「うむ」
「いいけど、何に使うの?」
「それは後からのお楽しみじゃ」
「はあ……?」
芍薬寮でお姉さまの応援を終えた後の事。
今日はお泊りになって食事も終わり、こくりとみっちゃんが一緒に共有お風呂に向かおうとした時に、お狐さまがリコーダーを借りたいと言いだした。
みっちゃんが首を傾げながらリコーダーを渡すと、お狐さまは何やら含みのある笑みを浮かべて、そのまま何処かへ行ってしまう。
それを見て、何に使うのだろう? と、みっちゃんは疑問には思ったが、それも一瞬の事だった。
何故なら、今からこくりと一緒にお風呂で、ワクワクの方が勝っていたからだ。
と言うわけで、芍薬寮の共有お風呂にやって来た。
すると、脱衣所で二人を出迎える変態が一人。
「あら? いらさーい。珍しいわね、こくりママ」
「裸女は出て来たら駄目です。パパに見つかったら怒られます」
「いいじゃない。今日は気配が無いんだもん」
こくりとみっちゃんを迎えたのは、夏休みに旧校舎の美術室で現れた“人体デッサンの少女”だった。
普段は姿を現さないが、今日はお狐さまがいないので、こうして隙あらば的な思考で現れたのだ。
「裸女さん久しぶり」
「きゃあ! みつこママじゃん! 私に裸体を見せに来てくれたの!?」
「ママじゃないよ! それに見せに来たわけじゃないよ!」
「ええー? 何それー? ちょーつれないじゃーん!」
久しぶりに会ったからか、テンション高めでうざ絡みする裸女。
しかし、それも直ぐに終わった。
何故なら、ここは芍薬寮の共有スペースで、たくさんの寮生が使う場所。
直ぐに他の生徒たちが入って来て、裸女は強制的に姿を消した。
裸女がここに居すわって良い条件は、姿を隠して迷惑をかけない事。
それを破れば、こくりママのお仕置き焼却が待っている。
流石に命? をかけてまで人の目の前に姿を現す事はしないので、裸女は一般生徒の前では大人しくしていた。
さて、脱衣所に今入ってきた生徒の内の一人は、先程のお姉さま。
こくりとみっちゃんが応援して、見事に優勝したFPSお姉さまだった。
そして、このFPSお姉さま、意外にも優雅な立ち振る舞い。
彼女の名前は、打田数樹。
家は軍人の家系で、それ故、練習の為にFPSを嗜んでいるのだとか。
そして、この妖女学園に通うお姉さまだけあって、その立ち姿や姿勢は絵になる美しさがある。
と言っても、まだ中等部の三年生。
大人の目線で見れば幼さは残っていて、可愛らしい容姿。
しかし、こくりとみっちゃんからすれば、とっても綺麗なお姉さまだ。
「クイーンです」
「すじゅお姉さま、ごきげんよう」
「あら? こくりさんにみつこさん、ごきげんよう。さっきはありがとう。二人も今からお風呂?」
「はい。せっかくだから一緒に入りたくて、わたしが誘いました」
「ふふふ。そうよね。一応各々の部屋にお風呂はあるけれど、どうせなら、大きいお風呂で一緒に入りたいわよねえ」
「こくりのプロ顔負けないぬかきをお見せする時がきたのです」
こくりはそう言うと、いぬかきのポーズを見せる。
その姿は可愛らしくて、頭につけた狐耳も合わさって可愛さ倍増だ。
「いぬかきのプロなんているの?」
「いいわねえ。私も見物しようかしら」
「目ん玉飛び出て救急搬送です」
「救急搬送だなんて、こくりさん難しい言葉を知ってるのねえ」
「今日お絵かきの時間に覚えました」
「お絵かきの時間!? その時間に覚える要素どこ!?」
「ふふふ。本当にお二人は面白いわねえ」
相変わらずの眠気眼な無表情でボケボケなこくりと、ツッコミを入れるみっちゃんに、微笑ましく見守るすじゅお姉さま。
三人は仲良くお話をしながら服を脱ぎ、一緒に浴場へと入って行った。




