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妖女学園のこくりちゃん  作者: こんぐま
第4話 残暑のメロディー
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5時間目 合いの手はタンブリン(5)

 妖女学園の七不思議の一つ“独りでに鳴るリコーダー”は、深夜に初等部の音楽室から聞こえると噂されている。

 この怪現象は、もちろん一度こくりがお狐さまと一緒に調べている。

 だけど、結局は何も無いと判断していた。

 一週間もの長い間、深夜に侵入したけど、音どころかリコーダーすら見当たらなかったのだ。

 でも、今日は違っていた。


「ううぇええ。何これええ?」


 こくりは幼稚舎に向かう前に、応援に使うタンブリンをとる為に、みっちゃんと一緒に音楽室に来ていた。

 だけど、事件は既に起きていたのだ。


 ケースにしまっていた筈のリコーダーは外に出されていて、口を付けて吹く場所、つまり吹き口がべちゃべちゃにれていた。

 みっちゃんはそれを見て、顔を青ざめさせて震えると、恐ろしくてリコーダーを取れずに涙目になってしまった。

 するとそこで、軽快なタンブリンさばきで目の前に現れるこくり。

 シャカシャカポンポン鳴らすその姿は、まるでカラオケでテンション高めの人のよう。


「こくりは今日も絶好調です」


「それより見てよこれー。なんかべちゃべちゃしてるし、なんかにおってるのー」


 みっちゃんが半泣きで己のべっちゃべちゃなリコーダーに指をさす。

 すると、こくりはタンブリンを鳴らすのを止めた。


「みっちゃんのよだれ凄いです。これにはこくりも勝てません」


「わたしのよだれじゃないよ! もうやだー! よだれとか言うから、よけいに気持ち悪いよー!」


 わんわんと泣き出すみっちゃん。

 しかし、わんわんと言っても、イッヌの方のわんわんでは無い。


 みっちゃんが泣き出してしまうと、こくりは相変わらずの眠気眼な無表情を変えずに鼻をつまみ、リコーダーに近づいた。


狐栗こくり、この液体から妖気を感じるぞ」


「はい。きっと変態のよだれです」


「――ぴぇ」


 こくりの発言に、みっちゃんは小さな悲鳴を上げ、号泣しながら固まった。


 変態のよだれと聞いて、よほど恐ろしかったのだろう。

 もちろんこくりの言う変態とは変異体の事だが、吹き口にべっちゃりついた液体からは異臭がするし、場所的にもよだれに見える。

 だからこそ、最早そのまま変態のよだれがついているようにしか見えない事案。

 初等部一年生でまだ6才の少女みっちゃんには、あまりにもきつい最早ホラーすぎる案件だった。


「狐栗や、もう少しオブラートに包まんか。美都子みつこが泣きながら固まってしまったぞ」


「それよりも汚いので焼却します」


 こくりは青白い炎をお尻から生やし、モフモフ狐尻尾を装着して、“燐火りんか”を出してリコーダーを燃やした。


「わたしのリコーダーがあああ。わああああああん……っ!」


 あわれなりみっちゃん。

 リコーダーを音楽室に忘れてしまったが為に、べちゃべちゃに汚されてしまい、最後にはこくりによって燃やされてしまった。

 と、思ったが、こくりの燐火は妖関係のものにしか効かない性質。

 リコーダーは無事である。


「どうぞ」


 こくりが相変わらずの眠気眼な無表情の中に温かさなを見せ、べちゃべちゃが無くなったリコーダーを取って、みっちゃんに差し出した。

 みっちゃんはそれを見て、顔を青ざめさせて身をブルりと震わせた。


「ええええ! なんかやだー!」


「美都子よ。狐栗が完全に汚物を消し去った。もう安心して良いぞ」


「そう言う問題じゃないよー!」


「洗わなくても良いくらいに完璧に焼却したので、心配しなくても大丈夫です」 


「だから、心配とかじゃ――――っ!?」


 その時、みっちゃんは驚愕きょうがくして目を疑った。

 何故なら、こくりがみっちゃんのリコーダーの吹き口に口を付けて、プァーと鳴らしたからだ。


「ちゃんと吹けます。安全です」


「だ、ダメだよ! ばっちいよ!」


「こくりはばっちいですか?」


「ち、違う! そうじゃなくて! ばっちいのはリコーダーで……」


 こくりの相変わらずの眠気眼な無表情の瞳にジッと見つめられて、みっちゃんは言葉を詰まらせてしまう。

 そして、最後には観念して、こくりからリコーダーを受け取った。


「ごめんね。こくりちゃんはばっちくないよ」


「ばっちくないですか? 安心です」


 こくりはメリハリのない声色で安心したように話すと、みっちゃんにタンブリンを追加で渡す。


「え? タンブリン……?」


「みっちゃんもこれでお姉さんを応援しましょう」


「あ、うん……」


 みっちゃんは返事をしながら、なんだかドッと疲れを感じて苦笑する。

 すると、その時に予鈴が鳴って、二人は急いで音楽室を出て行く。

 そして――


「たった一晩の内に何が起こったのやら。調べる必要があるのう」


 ――音楽室に取り残されたお狐さまは呟くと、理事長室へと向かって行った。

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