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妖女学園のこくりちゃん  作者: こんぐま
第4話 残暑のメロディー
22/61

1時間目 合いの手はタンブリン(1)

 この世に蔓延はびこる怪奇な現象。


 人々の心から忘れ去られていく“おばけ”や“幽霊”や“妖怪”のたぐい


 それ等が詰まったこの世の不思議は、


 時が経つにつれ薄まっていく。


 だが、そんな不思議が今でも集まる場所がある。


 それが、世界に名だたる名門女子校【私立妖花(ようか)威徳(いとく)女学園】。


 幼稚舎から大学までエスカレート式に通える少女達の学び舎。


 “妖花”や“威徳”などと言う可笑しく奇怪な名の学園ではあるが、


 設立当時はこの名前が【徳女】と略されて話題となり、


 徳を積む事の出来る学園として、名家のお嬢様方からの注目を集め、


 今では名門と呼ばれる学園となった。


 しかし、時が経ち、今では若者たちから【妖女】と呼ばれ、


 その名に釣られた一部マニア達からも一目置かれた乙女の園。


 この物語は、そんな可笑しな名の学園に通う幼女『狐栗こくり』の、


 奇妙で不思議なあやかしが満載な物語である。







 季節は秋。

 夏休みも終わりを告げた9月の上旬。

 芸術がはかどるこの季節に、妖女学園の初等部では、10月に開催される文化祭の準備が始まっていた。


「うーん。上手くいかないなあ……」


 ここは初等部にある音楽室。

 こくりのお友達である絹蔦きぬつた美都子みつここと“みっちゃん”は、放課後の時間を使って、クラスの出しものである合唱の練習に一人でいそしんでいた。


 本来であれば、放課後は合唱部が音楽室を使っているが、この日は体力作りでマラソン中。

 合唱部でマラソン? と、疑問に思うかもしれないが、これも大切な事だと顧問こもんの先生が週一で丸一日予定に組み込むのだ。

 と言っても、数キロ先にある土手まで行って、そこで青空の下で練習をしているようだが。


 さて、それはそうと、合唱でのみっちゃんの担当はリコーダーだ。

 クラスでお嬢様ではないのがみっちゃんだけと言う事もあり、他の子はみんな習い事をしている為か、楽器の扱いに長けている。

 みんなの足を引っ張らないようにと、こうして練習をしているのだが、中々上手くいかない。


 みっちゃんはしょぼんとした顔で天井を仰いで、椅子の背もたれに背中を預け、「はあ」とため息をこぼした。


「このままだとみんなの足手纏あしでまといに……あ。もうこんな時間」


 時計を見れば、既に17時手前の時間。

 練習を随分と長い間していたと、みっちゃんは帰る準備を始める。

 するとそんな時だ。

 音楽室の扉が開いて、みっちゃんのクラスの担任の先生が入ってきた。


「絹蔦さん、音が聞こえたのでもしかしたらと思ったけど、やっぱりまだ練習してたのね」


「あ、先生。ごめんなさい。今帰る所です」


「違うの違うの。注意しに来たわけじゃないのよ。お願いがあって来たの」


「お願いですか?」


「ええ。早く早く」


「先生!?」


 みっちゃんの腕を掴み、先生が急ぐように音楽室を出る。

 そうして連れて行かれたのは、体育館だった。


 体育館に辿り着くと、何やら上級生たちが騒がしくしていた。

 そしてその中心……では無く、に、こくりの姿が。


「こ、こくりちゃん!?」


「みっちゃん、やっほーです」


「やっほーじゃないよ! 危ないよ!」


「つばめさん救出大作戦です」


「え、えええええ!?」


 と言うわけで、上級生たちが騒がしい理由がこれ。


 初等部の体育館は、骨組みが見えるタイプの直天井になっているのだが、こくりはそこに登っていたのだ。

 そしてその近くには、こくりから逃げるツバメの姿。


 こくりは相変わらずの眠気眼な無表情で、メリハリのない声色だ。

 だけど、今日は少し違う。

 しっかりと少し大きな声で話し、それに容姿も昔懐かし体操服。

 今の時代では見ないジャージにブルマ。

 何かのコスプレだろうか? なんて事をマニアが見れば思えるその格好で、こくりはそこにいた。

 そして、こくりは時にはボールのように挟まり、時には雲梯うんてと呼ばれる遊具で遊ぶようにぶら下がって移動している。


狐火きつねびさんのジャージとブルマは、理事長が子供の頃に使ってたものらしいわよ。だから、ほら。よく見ると少し大きいでしょう? 理事長って物持ち良いわよね」


「なるほど……って、先生! そんな事言ってる場合じゃないですよ!」


「そうね。だから貴女を連れてきたのよ」


「ええ……。何でそこでわたしなんですか?」


「だって、狐火さんと仲が良いんでしょう?」


「そ、そうですけど……」


「私達が言っても、降りてこないのよね。あんな動き回ってる状態だと、天井を下げるのも危ないかもしれないし」


 先生が困り果てたような様子を見せ、眉根を下げてため息を吐き出す。


(わたしがこくりちゃんを助けないと!)


 みっちゃんは心の中でそう言って、こくりを見上げた。


「こくりちゃん! 危ないから降りておいでよ!」


「つばめさんを助けたら降ります」


 ツバメを追いかけて、あっちへこっちへと軽やかに移動するこくり。

 その度に、下でそれを見上げるお姉さま方が、顔を真っ青にして小さく悲鳴を上げる。

 するとそんな時に、みっちゃんの背後から不意に現れる白いモフモフ。


「美都子、狐栗こくりは何をしておるのだ?」


「あ、お狐さま」


 白いモフモフの正体は、こくりのパパのお狐さま。

 お狐さまはこくりを見上げたが、とくに心配している様子も無い表情。


「えっと、実は――」


「絹蔦さん? 急に独り言なんて言いだしてどうしたの?」


「――え?」


 みっちゃんは側に立っていた先生に言われて、お狐さまが他の人には見えていない事に気がつく。

 そして、「何でもないです」と言って、みっちゃんは慌てて先生から離れた。


「すまぬな、美都子。他の者にはわしの姿が見えないのだった」


「そんな事より、こくりちゃんを早く降ろしてあげて下さい」


「ふむ?」

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