7時間目 深夜のドキドキ初体験(4)
「うぅ……。酷いよ」
とても悲しい事件が起きてしまった。
学園の七不思議の一つ“人体デッサンの少女”の名付け親になったこくりは、それがきっかけで情を持ってしまい、みっちゃんを助ける事が出来なかったのだ。
そして、何よりも役に立たなかったのはお守り。
こくりがみっちゃんに渡したお守りは、身を護る道具ではあるが、今回に限ってその効力を発揮できなかったのだ。
何故なら、みっちゃんは脱がされただけだから。
これがもし霊的な危険が及ぶアレでソレな感じであれば、護ってくれただろうが、そうでなかった。
脱がされるだけでは、お守りは発動しないのだ。
と言うわけで、みっちゃんは全裸……ぎりぎりショーツだけが残り、泣いてしまった。
「良いわあ。少女がおパンツのみで涙を流す姿! 絵になるわね!」
「うわあああん! 汚されちゃったよお! 傷物にされちゃったよおお!」
何度も言うが、服を脱がされただけである。
汚されたは、まあ、ギリギリグレーゾーンな気もするが、傷物にはなってない。
「ぐへへへへ。やっべマジでテンション上がってきた! よーし、描――」
「うるさいです」
「――ぎゃああああああ!」
さっきから煩い裸女に向かって、こくりが“燐火”を食らわせた。
情が移ったんじゃないの? って感じではあるが、そこはこくりなので仕方が無い。
「もうお嫁に行けないよ」
「それなら、こくりがお嫁にしてあげます」
「――え?」
みっちゃんのハートに“トゥンク”の文字が浮かび上がり、頬を染めてこくりを見る。
こくりは相変わらずの眠気眼な無表情だったが、みっちゃんの瞳には一層とイケメンに映った。
そして、二人を照らす燐火の炎は、まるで踊るように舞い続ける。
但し、その舞い、裸女の悲痛な叫びが添えられている。
おかげでみっちゃんもトゥンク心から戻って来て、冷や汗を流して裸女に視線を向けた。
「もっとうるさいです」
こくりはそう呟くと、裸女を燃やしていた燐火を消す。
すると、裸女は息を荒げて、真っ黒焦げな額を拭った。
「死ぬかと思ったわ」
「もう死んでるんじゃ?」
「私は人の欲から生まれた存在よ。生まれた事はあっても死んではいないわ」
「そうです。裸女はこくりの娘です」
「ただの名付け親だよ!?」
「どうぞ」
こくりは服を拾って、みっちゃんに差し出した。
みっちゃんは「ありがとう」とお礼を言って受け取って、いそいそと着替え始める。
すると、こくりは裸女に体を向けて、相変わらずの眠気眼な無表情を向けた。
「ここで人を脅かしちゃダメです。次やったら焼却します」
「えええー。でもでも~。私は女の子の裸見ないと、存在を形成する為の概念的な問題で消滅しちゃうし、仕方ないって言うか~」
「それなら、こくりと一緒に寮で住めば良いです。みんなで入れるお風呂があるから、そこで姿を消して住んで下さい」
「――えええええ!? こくりちゃん何言ってるの!?」
「ほんとにー!? そんなパラダイスに行って本当にいいの!? 私って地縛霊的な存在でもあるから、ママに憑りついちゃう感じになっちゃうわよ~!?」
「憑りつく!? だ、駄目だよ!」
「問題無いです。人を襲わない悪い変態じゃないなら、こくりは焼却しません。歓迎します」
「ママ大好きー!」
裸女がこくりに抱き付き、みっちゃんが顔を青ざめさせる。
「裸女はこくりとみっちゃんの娘です。優しくしてあげます」
「え!? わたしも!?」
こうして、学園の七不思議の一つ“人体デッサンの少女”の事件は無事解決した。
その後の芍薬寮の大浴場では、少女が興奮しているような息遣いが聞こえる時がたまにあるだとかないだとか。
尚、帰って来たお狐さまによって、裸女はこくりの娘ではなくなった。
その時のお狐さまは、こくり曰く「すんごい激おこです」だったようだ。




