6時間目 深夜のドキドキ初体験(3)
美術室を出て一時間が経ち、未だに妖を見つけられていなかった。
時間も既に深夜一時を過ぎていて、こくりの眠気眼も更に眠そうだ。
「ねえ、一度美術室に戻ってみない?」
「……そうします」
みっちゃんの提案にこくりは頷くと、手を繋いでトテトテと歩いて行く。
そうして二人で美術室に戻ってきたが、やはり何の気配もない。
だけど、戻ってくるなり直ぐにみっちゃんが「あっ」と小さく声を上げて、こくりの手を離して美術室の中をキョロキョロと見回した。
「どうしました?」
「わたし今気がついたんだけど、他の教室には机とか椅子とか残ってたのに、ここだけ無いの」
「……ホントです」
みっちゃんが気付いた事、それは、その通りの何も無い美術室。
今更な話だが、ここは旧校舎で、今は使われていない場所。
机と椅子が無いからって、疑問に思うわけも無かったのだ。
ましてや、普段来ない場所でもあって、他の教室がどうなってるかも分からない。
まさか、この美術室だけ、それ等が無いなんて誰が想像できたであろうか?
「学園の七不思議の一つ“人体デッサンの少女”って、絵を描いてって頼んでくるんだよね? だったら、その為の道具が無いと出て来ないんじゃないかな?」
「おおー。きっとそうです」
さっきまで相変わらずの眠気眼な無表情を更に眠そうにしていたこくりは、みっちゃんのナイスなアドバイスでいつもに戻る。
そして、二人で直ぐに近くの教室から椅子と机を持って来た。
「後は紙とえんぴつがあれば良いんだけど……」
「寮に行って取って来ます」
「うん。じゃあ、わたしも――」
――ガラガラ。カチッ。
突然閉まる美術室の扉と、かけられてしまった鍵。
驚いて視線を移すと、扉の前には、帯び無しで和服を羽織っただけの半裸な少女が立っていた。
少女は見た目12歳くらいのお姉さんで、黒く長い前髪で目が隠れている。
そして、気味の悪い薄ら笑いをしていた。
「――きゃああああああ!」
少女の姿を見てみっちゃんが驚き、こくりは相変わらずの眠気眼な無表情で“燐火”を宙に浮かす。
すると、少女は口角を上げて微笑みを見せた。
「うふふ。久しぶりのお客様。何だか興奮してきちゃった」
「あわわわわわわわ! こ、こくりちゃん! このお姉さんは人!? 幽霊!?」
「変態です。姿を見せるまで分からなかったです」
「いやあああああ! 怖いー!」
みっちゃんが怯えるとこくりが前に出て、燐火で出来たモフモフ狐尻尾を揺らめかせる。
すると、少女が二人にゆっくりと近づきながら、脱ぎ始めた……いや。
帯び無し和服を羽織っていただけなので、脱ぎ始めるも何も無い。
バッと清々しいくらいに豪快に和服を脱ぎ捨て、肌着や下着一つない全裸な姿を現した。
そして、鼻息が段々と荒くなる。
「うへへへへ。君達、私をモデルにしたヌードデッサンごっこしよっか~?」
「ごっこ!? なんでごっこなの!?」
「そっちの方がエッチに聞こえるからよ」
やはりこくりは正しかった。
この妖は間違いなく変態だ!
「ひぃっ――」
みっちゃんが恐怖で顔を青ざめさせ、後退る。
「――へ、変態だー!」
「はい。変態の妖です」
「うへへへへ。ほらほら。早く描かないと、その可愛らしいお洋服をひん剥いちゃうぞ」
「いやああああ! こっち来ないでー!」
やはり変態。
どうやら変態はターゲットをみっちゃんに絞ったらしく、後退るみっちゃんを狙い始めた。
変態からしてみれば、ちっとも動揺を見せないこくりより、面白いくらい分かりやすい反応を見せるみっちゃんの方が可愛いのだろう。
「お嬢ちゃんなんて言うお名前なの? 私はね、“女の子の体を見たい描きたいって言う欲”から生まれた存在なの。だから、名前は無いから好きに呼んでね?」
「そんなの知りたくないしどうでもいいよ! こっち来ないでー!」
「では、こくりが命名します。変態の妖の名前は裸女です」
「そのまんまだよ!」
「うへへへへ。ありがとう、お嬢ちゃん。私は今日から裸女。さあ、一緒に裸になりましょう?」
「目的変わってるよ!? こくりちゃん助けて!」
「こくりは名付け親として、愛情を持ってしまったかもしれません」
「なんで!? ――って、ひいいいいいいい!」
みっちゃんに迫る裸女の魔の手。
そして、こくりは名付け親となってしまった事で、裸女に情が湧いてしまった。
絶体絶命のこのピンチを、みっちゃんは無事に切り抜ける事が出来るのか!?




