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妖女学園のこくりちゃん  作者: こんぐま
第3話 真夏の全裸大事件
17/61

3時間目 肌色バケーション(3)

「じゃあ、狐栗こくりちゃん、脱いで見よっか」


「分かりました」


「分かるな!」


 美術室に寺雛井じひない先生の怒声がこだまする。

 こくりが人体デッサンのモデルになってから、既に二時間が経とうとしていた。


 クレヨンでお絵かきを楽しんでいたこくりは、少し前に飽きてしまい、ソワソワしていた。

 そんなこくりを見て、美術部のお姉さまが提案したのだ。


「えー! いいじゃないですか~。狐栗ちゃんが良いって言ってるんだから~。小さい子の体は芸術品なんです。先生なのに知らないんですか~? 寺雛井先生~」


「何が芸術だ。そんなに子供の裸が見たいなら、鏡でも持って来て自分で脱げ。お前の場合は小六のくせして考えがよこしまなんだよ。だから絶対駄目」


「先生酷~い!」


 寺雛井先生と生徒が言い争う中で、こくりが首を傾げてみっちゃんに尋ねる。


「よこしまですか?」


「こくりちゃんを裸にさせて、風邪をひかせようとしてるんだよ」


 しっかり者のみっちゃんも、やはり初等部一年生。

 風邪をと言ったその目は真剣そのもので、珍しくボケボケだが大真面目だ。

 キスで真っ赤になるとは言え、まだまだお子様な少女である。


「なんでですか?」


「邪だからだよ。邪って、悪い人の事なの」


「おおー。こくりはバカじゃないから風邪をひくので気をつけます」


「うん。だから服を着ようね」


「分かりました」


 と、言うわけで、時すでに遅し。

 お姉さまに返事をした時から、こくりは既に真っ裸である。

 しかし、みっちゃんのナイストークで直ぐに服を着始めた。

 すると、お姉さまたちがクスクスと微笑ましく笑みを浮かべる。


「狐栗ちゃん、かわいー。全裸少女の犯人って、実は狐栗ちゃんだったりして」


「私も知ってるわ。夏休み前に出たって噂の少女の幽霊よね?」


「旧校舎の美術室で深夜に出た“人体デッサンの少女”ね。私を描けー! と、強要してくるそうよ」


「それって学園の七不思議の一つだよね?」


「ええ。描かされた上に、完成した絵が気に入らなければ、全裸にさせられるみたいよ」


「はいはい、お前ら~。喋ってないで手を動かせー」


「「はーい」」


 寺雛井先生の注意に、お姉さまたちが素直に返事をした。

 すると、その後直ぐにみっちゃんがこくりにコソコソ話を開始する。


「ねえ。もしかして、人体デッサンの少女ってあやかしなのかな?」


「はい。変態です」


「変態じゃなくて変異た……全裸で出てくるなら、変態で合ってるかも? って、それより、やっぱりお狐さまに言うの?」


「パパは神社に帰っていて、お供え物チェックでいないので、こくりだけで今夜の内に行ってきます」


「――ええええ!?」


 みっちゃんが驚いて、こくりが「うるさいです」と耳を両手でふさぐ。

 そして、寺雛井先生とお姉さまたちも突然の大声に驚き、全員がみっちゃんに注目した。


「みつこ、どうしたんだ? 急に大声出して」


「ご、ごめんなさい。なんでも無いです」


 みっちゃんは謝ると、少し気まずそうにしてから何かを考えだして、直後に美術室を出て行ってしまった。

 こくりは首を傾げて背中を見送り、寺雛井先生は名前を呼んだが、みっちゃんは「急用です!」と声を上げるだけで立ち止まらなかった。


 寺雛井先生が不思議そうな顔をして、こくりに視線を向けた。


「何があったんだ?」


「急用です」


「その急用ってのを聞きたいんだけど?」


「急用……つまり、うんこです」


「うんこて……。女の子がうんことか言うのやめなさい」


「何故です?」


「なんでもだ。と言うか、一応うち、お嬢様御用達の名門女子校だからな。下品な言葉は言わない事。今度からはお手洗いとかにしなさい」


「うんこは……下から出るものは下品です? 覚えました」


「下からって……まあ、間違っちゃいないけど…………」


 寺雛井先生が少し頭痛を覚えながら肩を落とし、お姉さまたちがクスクスと笑う。

 今日もこくりは絶好調だ。

 と言うか、こくりはまだ幼稚舎に通う5才の年少さん。

 年齢的にはうんこと口にしても仕方ない部分はある。

 それが分かってるからこそ、寺雛井先生も修羅の片鱗へんりんを見せる事も無く、この程度の注意ですんでいた。


 お姉さまたちはクスクスと笑うだけで、流石にそれを話題にしたりはしない。

 年齢的にうんこと口にする歳ではないからだ。


 さて、美術室を出て行ったみっちゃんだが、戻ってきたのは部活動終了の時刻になってからだった。

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