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妖女学園のこくりちゃん  作者: こんぐま
第3話 真夏の全裸大事件
15/61

1時間目 肌色バケーション(1)

 この世に蔓延はびこる怪奇な現象。


 人々の心から忘れ去られていく“おばけ”や“幽霊”や“妖怪”のたぐい


 それ等が詰まったこの世の不思議は、


 時が経つにつれ薄まっていく。


 だが、そんな不思議が今でも集まる場所がある。


 それが、世界に名だたる名門女子校【私立妖花(ようか)威徳(いとく)女学園】。


 幼稚舎から大学までエスカレート式に通える少女達の学び舎。


 “妖花”や“威徳”などと言う可笑しく奇怪な名の学園ではあるが、


 設立当時はこの名前が【徳女】と略されて話題となり、


 徳を積む事の出来る学園として、名家のお嬢様方からの注目を集め、


 今では名門と呼ばれる学園となった。


 しかし、時が経ち、今では若者たちから【妖女】と呼ばれ、


 その名に釣られた一部マニア達からも一目置かれた乙女の園。


 この物語は、そんな可笑しな名の学園に通う幼女『狐栗こくり』の、


 奇妙で不思議なあやかしが満載な物語である。







 夏休みに入り、季節は夏真っ盛りな8月上旬。

 一週間の寿命だといつわり人をだま姑息こそくなセミたちが騒音そうおんを上げる中、りょう暮らしの幼女は冷房の効いた食堂でかき氷を食べていた。


「おいしいです。これは五つ星のシェフもびっくりの味です」


「あはは。こくりちゃんって本当に美味しそうに食べるよね~」


 大袈裟なこくりに笑顔を向けるのは、先月の夏休み前に出来た友達のみっちゃんだ。

 夏休みに入ってから、みっちゃんはこうして何度も芍薬しゃくやく寮に来て、こくりとよく遊んでいた。


 今日のみっちゃんのコーディネートは、涼しげな袖なしのワンピース。

 白い布地に薄っすらとした青が浮かんでいて、清涼感に溢れている。

 くつは学園指定のシューズだが、靴下もくるぶしまでの長さで足も涼し気だ。


 因みに、対するこくりはいつも通り。

 他に服が無いのか、園児服に園児靴。

 そして、忘れてはならない狐耳のカチューシャだ。


 そんな容姿の二人は、一緒におやつの時間を楽しんでいる。

 尚、今日はこくりのパパのお狐さまの姿は無い。


「でも、不思議です」


 相変わらずの眠気眼な無表情で呟くと、こくりはみっちゃんの食べていたかき氷をスプーンですくって、パクリと食べる。


「こくりのイチゴ味とみっちゃんのメロン味が同じ味です」


「え? うそだー」


 と言いながら、みっちゃんもこくりのかき氷をスプーンですくって、パクリと食べる。


「ん~? 言われてみると……そうかも?」


「不思議です。きっと学園の七不思議です」


「そこまでじゃないと思うよ? って、あ。学園の七不思議と言えば、この前出たらしいよ」


「変態が出たんですか?」


「違うよ! おばけだよ! 今の流れで何で変態の話になるの!?」


「変態のあやかしです」


「ああ、そっか。変異体の妖か……」


 みっちゃんは苦笑し、かき氷を一口食べて気持ちを落ち着かせる。


 そんなわけで、一ヶ月も経てば慣れたもので、みっちゃんも大分こくりの事を理解していた。

 こくりは未だに変異体を変態と呼ぶので、流石に気を抜くとこうして理解不能にはなるが、それでも直ぐに察する事は出来ている。


 こくりはそんなみっちゃんがかき氷を食べる姿を見て、相変わらずの眠気眼な無表情の瞳に驚きを見せた。


「みっちゃんのベロが緑色です」


「え? あ、こくりちゃんも舌が赤くなってるよ」


「こくりのベロは元々赤色です」


「あははは。そうじゃなくって~、そうだ。食べ終わったら、鏡を見に行こうよ」


「……? 分かりました」


 首を傾げて頷くこくりと、楽しそうで笑顔なみっちゃん。

 食堂に“尊いフィールド”が形成されて、それを微笑ましく眺めるお姉さま方。

 しかし、そんな時、それを脅かす修羅しゅら……では無く、寮長の寺雛井じひない先生が現れた。


「こくり、ここにいたか」


 ここ芍薬しゃくやく寮の寮長先生である寺雛井じひない朱里しゅり先生。

 今日もジャージを着ている32歳で、格好に色気が全く無い。

 しかし、休日は彼女・・と過ごす彼女持ちのウーマン。

 生徒たちからは“修羅”と恐れられていて、こくりでも怖がるほどに怒るとかなり怖い先生だ。


 そんな寺雛井先生はこくりを捜していたのか、こくりの隣の席に座った。


「寺雛井先生こんにちは。かき氷おいしいです。あーん」


 こくりは挨拶すると、スプーンですくったかき氷を顔の前に伸ばす。

 すると、周囲から「かわいー!」と黄色い声援が上がって、寺雛井先生はそれを一切気にした様子も無くパクリと食べた。


「うん、うまい」


「五つ星もびっくりです」


「五つ星? それより、実は――って、どうした? みつこ」


 寺雛井先生が冷や汗を流し、みっちゃんに視線を向ける。

 何故なら、みっちゃんが瞳をキラキラさせて見ていたからだ。


「こくりちゃん、こくりちゃん。わたしもそれしてほしい。あーんってして?」


「わかりました。あーん」


 こくりはいつものメリハリのない声色で返事をして、スプーンでかき氷をすくい取り、みっちゃんの口元に持っていく。

 すると、みっちゃんは更に目を輝かせ、パクリと幸せそうに頬張った。

 そしてそれを見た周囲の野次馬なお姉さま方が、「かわいー!」と黄色い声を上げる。


「しあわせ~」

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