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妖女学園のこくりちゃん  作者: こんぐま
第2話 きぬつたクリーニングへようこそ
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9時間目 妖退治出張サービス(6)

「アタシのてんぷらちゃんから離れろ、人間!」


 みっちゃんに向かってアライグマのあやかしが飛び掛かる。

 すると、こくりが青白く燃える“燐火りんか”を出して妖に放った。

 だけど、アライグマは身の危険を察知してけてしまった。


「危ないわね! 全身の毛が燃えちゃうじゃない!」


「毛が燃えるだけじゃ済まないと思うよ?」


「今日の夜食はアライグマの丸焼きです」


「え? 妖って食べられるの?」


「……。食べれませんでした」


 みっちゃんのツッコミと言うよりは疑問に答え、ショックを受けて凹むこくり。

 相変わらずの眠気眼な無表情だが、その瞳は少しうるんでいる。


美都子みつこ、お主に問う。てんぷらはメスか?」


「え? うん。そうだよ?」


「やはりそうか。しかし、美都子よ。儂に敬語を使わなくなったな?」


「っへ? あ、ごめんなさい。あまりにも酷いから面倒になりました」


「面倒とな……っ」


 みっちゃんの塩対応に、今度はお狐さまがショックを受け、しょんぼり顔で凹む。

 まさかのフレンドリーファイアでこくりとお狐さまが凹んでしまい、ピンチがおとずれてしまった。


「おっほっほっ! 馬鹿ね! さあ、てんぷらちゃんをこっちに寄こしなさい!」


「ダメ! てんぷらはわたしの家族なの! 絶対離さない!」


「なんですって!」


 睨み合う一人と一匹。

 しかし、この時、凹んでいたこくりがみっちゃんの前に出た。


 こくりは狐耳のカチューシャをピクリと動かし、燐火で出来た狐のモフモフ尻尾をゆらりとさせる。

 そして、その手には、火の球となった燐火の青白い炎。


「こくりは悲しみを乗り越えます。変態さん、覚悟して下さい」


「へ、変態ですって!? アタシは変態じゃないわ! 同じメスのてんぷらちゃんがめ回したいくらいに好きなだけよ!」


「変態じゃん!」


「ふ。やはりか」


「お狐さま!?」


「てんぷらがメスと聞いて、儂は確信しておった。儂がてんぷらに抱いたライバル心は、無駄であったと」


「どうでもいいし自分からライバルだと思ったの認めた!」


「アライグマの妖よ! 何故クリーニングした汚れを再発させるなどと言う悪さをした! 答えよ!」


「え? この流れでそんな本題な事を聞くの?」


 強引過ぎる話の展開。

 みっちゃんが冷や汗を流し、お狐さまが真剣な面持ちを妖に向けて、こくりが相変わらずの眠気眼な無表情の瞳に闘志を燃やす。

 すると、アライグマは二足歩行で立ち上がり、てんぷらの小屋に前足でれた。


「アタシはアライグマのグマ子。人々の“カレーや醤油の染みを綺麗に落としたい”と言う願いから生まれた妖よ」


「そ、そうなんだ……?」


 突然遠い目をして語り出した妖のアライグマ改めグマ子に、みっちゃんは冷や汗を流した。

 そして、みっちゃんは思うのだ。


(なんで名乗ったんだろう? それに生い立ちとかも聞いてないし、これって校長先生くらい話長くなるやつかな?)


 と。

 しかし、そんなみっちゃんの心配をよそに、グマ子の話は続く。


「あれは、アタシが野山でイケてるメスを捜している時の話よ。たまに山に来るにんげ――――ほぎゃああああああ!」


 絹蔦家に響くグマ子の悲鳴。

 その原因は燐火の球だ。


 グマ子が長そうな話をしている途中で、こくりが燐火の球を投げたのだ。


「話が長いです」


「わたしもそう思うけど容赦なさすぎだよ!」


「戦闘中に長話など始める方が悪い」


「いや、これ、お狐さまが聞いたからだよ?」


「焼けるううう! 助けてええ!」


「あわわわわ。なんか可哀想だよ。火を消してあげて?」


「分かりました」


 みっちゃんに言われてこくりが燐火の炎を消すと、丸焦げになったグマ子が口から煙を吐き散らかし、体をピクピクと震わせる。

 そして、うるうると涙を目ににじませる。


「汚れが元に戻ればお客さんがまた来て、このお家がもうかって、てんぷらちゃんのご飯が豪華になると思いました。ごめんなさい」


「え? あ、そうだったんだ? グマ子ちゃんはてんぷらの為を思ってしてくれたんだね」


「はい」


 みっちゃんに命を救われたからか、やけに素直に自白するグマ子。

 犯行動機も悪気は無かったようなので、流石にみっちゃんも怒る気になれなかった。


「愚か者め。お主の行為は、この家に悪評を与え、さかえるどころかおとえさせる行いだ。反省せい」


「そんな! そんなの嘘よね!?」


 グマ子が驚いてみっちゃんに視線を向け尋ねると、返ってきたのは眉根を下げた無言の否定の表情だった。

 それを見てグマ子は察して、しょんぼりと項垂うなだれる。

 すると、そんなグマ子にこくりが近づいて、頭をよしよしとで始めた。


「もう悪い事したらダメですよ」


「分かったわ」


「こくりちゃん……」


 こうして、みっちゃんの家で起こっていた事件はかいけ――


「――あ。大変です」


「え? こくりちゃん、どうしたの?」


「何かあったのか? まさか、その妖、まだ何か……」


「アタシは何もしてないわよ!」


りょうのボスに、帰るのが門限より遅くなるって言い忘れました」


「ええええ!? た、大変だよ! こくりちゃんの芍薬しゃくやく寮の寮長って、今朝会った寺雛井じひない先生だよね!? 何で今朝会った時に言わなかったの!? 絶対怒られるだけじゃ済まないよ!」


 事件はまだ解決していなかった。

 こくりの寮には門限があり、その時間はとっくにオーバーしていたのだ。

 しかも、寮長先生はみっちゃんの言う通り、慈悲の無い怖い先生。

 これには、流石のこくりにも焦りが出る。

 こくりは言い訳を考え、そして――


「――っ閃きました。事故にあえば誤魔化せるかもしれないです。ちょっと階段から落ちて来ます」


「やめて!」


 こうして事件は解決して、一件落着したのだった。

 そして、騒ぎを聞きつけてやって来て、喋る狐とアライグマを見て気絶しているみっちゃんのママンの事を、こくり達は知るよしも無かった。




 追伸ついしん、寮長先生にこの後めちゃくちゃ怒られました。

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