8時間目 妖退治出張サービス(5)
絹蔦家で晩御飯をご馳走になり、お腹がいっぱいになったこくりは、みっちゃんの部屋で別腹のデザートを食べながらお狐さまの話を聞いていた。
その話の内容は、もちろんこの家の中から感じる“妖”の気配の事。
と言うわけで、お狐さまの話はこうだ。
クリーニング済みの服から妖が放つ独特の妖気を感じて、取りに来たお客さんの後を尾行した。
だけど、妖は全く姿を現さず、服には呪いがかかっていた。
恐らくそれが、数日後に同じ染みが出る原因だから、それを祓っておいた。
そして、今のところは他には妖気を感じる物は無い。
お狐さまが姿を現して説明すると、こくりは深く考え込み、そして、頷く。
「事件解決です」
「え? そうなの?」
「妖の気配をまだ感じるから解決はしておらんな」
「そう言えばそうです」
「……こくりちゃん、適当な事言わないでよ」
「こくりはいつも真剣です。適当じゃないです」
「あはは……。あ、そうだ。その気配? は、どこからきてるか分からないの? 例えば隣の部屋とかお風呂場とか」
「う~む。それが妙でのう。本来なら分かるのだが、何故か分からんのだ」
「こくりは分かります」
「うむ。いったいどこに隠れておるのやら……」
「え? 今こくりちゃん分かるって言ったよ?」
「――っ何!? それは本当か狐栗!」
「まさかの聞いてない!」
「まあ、そう細かい事は気にするでない。それで狐栗や。なぜ今まで黙っておった?」
「場を盛り上げようと思って、もったいぶりました。こくりはスーパーエンターテイナーです」
「流石は狐栗。儂の娘だけある」
「盛り上げなくていいよ! お狐さまの変な所で感心しないで下さい!」
相変わらずの眠気眼な無表情でメリハリのない声色で話すマイペースこくりと、親ばかのお狐さま。
そんな二人に振り回され、みっちゃんがツッコミて爽やかな汗を流し、息を切らす。
すると、こくりがみっちゃんにミルクティーを差し出した。
「こくりのミルクティーをあげます。これを飲んで落ち着いて下さい」
「へ? あ、うん。ありがとう」
みっちゃんはミルクティーを受け取り、一口飲んで落ち着いた。
「それで狐栗よ。妖は何処にいるのじゃ?」
「てんぷらの巣です。てんぷらの臭いと妖の臭いが混ざってて、それでパパは気づかなかったです」
「え? それって混ざるものなの……? なんかやだ」
「なるほど。どうりで分からなかった筈よ。あの狸めは狐栗のハートを儂から奪おうとしたライバル。儂の目を欺く為に、妖がまさか狸を利用するとは」
「お狐さまが勝手にライバル視して、勝手に避けていただけじゃ……?」
「美都子よ、そうでは無い。儂はあんな可愛いだけの狸など、ちっとも気にしておらん」
「さっき自分からこくりちゃんのハートを奪うライバ――」
「さあ、行くぞ狐栗! 狸に引導を渡してやるのだ!」
「えええ!? 引導を渡すのは妖だよね!? てんぷらに酷い事しないで! こくりちゃん、止めて!」
「てんぷらって聞いてたら、天ぷらを食べたくなってきました」
「今ご飯とデザート食べたばかりなのに!?」
お狐さまがてんぷらに逆恨みして部屋を飛び出し、その後をこくりとみっちゃんが追いかける。
そして、ついに妖が潜む所までやって来た。
しかし、そこで見たのは――
「クューン」
「てんぷらちゃん、聞いて? 今日も頑張ってお洋服に呪いをかけたの。これでこのお店がまた繁盛するわ」
「あ、アライグマが喋ってるううう!?」
――まさかの喋るアライグマ。
二本の前足を器用に動かして、怯えるてんぷらにハアハアしながら、ベタベタ触るアライグマの姿だった。
「クューン。クューン」
駆けつけたみっちゃんの声を聞き、てんぷらが鳴きながら逃げ出す。
そして、てんぷらがみっちゃんに飛びつくと、アライグマの目が鋭くなり、その目でみっちゃんを威嚇した。
「何よアンタ!? アタシのてんぷらちゃんを誘惑しないでよ!」
「ゆ、ゆうわく……?」
「そうか。漸く理解したぞ」
みっちゃんが困惑していると、不意にお狐さまが声を上げた。
そして、真剣な面持ちをてんぷらとみっちゃんに向けてから頷いた。
「その狸から妖の気配を感じたから、狐栗は最初に捕まえたのだ。謎は解決した」
「今はどうでもいいよ!」
「違います。てんぷらが美味しそうだったから捕まえました」
「わたしはそうだと思ってたよ! でも、もう一度言っておくけど食べないでね!?」
「アンタ達! アタシを無視して、てんぷらちゃんを取り合うなあ!」
「そんな事してない!」
「クューン」
遂に始まった妖とのバトル。
果たして、てんぷらは生き残れるのか!?




