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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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九百九十八 美嘉編 「卒業証書授与」

卒業証書授与が始まり、一組の出席番号一番の子から順番に証書が渡されていく。


沙奈子は一組だけど出席番号は後ろの方だから、二組ある全体の中ではちょうど真ん中くらいの順番か。


その前に、結人ゆうとくんの順番が来た。男子としてはむしろ小柄なくらいの彼だけど、不思議な存在感がある。鷲崎わしざきさんが選んだっていうブレザーに身を包んだその姿は、初めて会った時の彼とはまるで別人だった。


なにしろ以前の彼からは、野生の肉食獣のような危険な雰囲気が漂ってたから。


それに比べると、壇上で校長先生から卒業証書を受け取っている今の結人くんは、間違いなく『人間ひと』だ。


沙奈子と同じで、大人たちからペット以下の扱いを受けて、人間そのものを、特に大人を『敵』と見做してた彼はもういない。もちろん、まだまだ『普通のいい子』と言うにはほど遠くても、以前の結人くんを知ってる人間なら、彼がどれだけ成長したか分かる気がする。


そんな結人くんの姿を見て、鷲崎さんは、握り締めたハンカチで顔を押さえ、ひくっひくっとしゃくりあげながら、ボロボロと涙をこぼしてた。


彼女にとってはそれだけの光景なんだろうな。まさかこんな風にしてこの日を迎えられるとは思っていなかったっていうのもあるかもしれない。


正直、以前の結人くんだと、ここまでの間に何か大きな事件を起こすか巻き込まれるかしてても何も不思議じゃなかったし……。


すると、卒業証書を受け取って演壇から降りてきた結人くんが鷲崎さんの方をちらっと見て、軽く舌打ちをするような仕草を見せた。


これも、事情を知らない人から見たらとんでもない態度にも思えるだろうな。


だけど僕たちは知ってる。それが彼の照れ隠しなんだってことを、ね。




それからさらに進んで、すっと椅子から立ち上がった沙奈子の姿が見えた。真っ直ぐに立つ後姿がなんだか凛々しかった。


前の子が壇上に上がると、沙奈子は階段の下まで移動する。


遠目だからさすがに細かい表情までは見えなかったけど、やっぱりそんなに緊張してる感じはしない。


沙奈子が緊張してる風じゃなかったのは、あの子にとっても今日はただ、


『小学校に通う最期の日』


なだけで、何か特別な感慨がある日ってわけじゃないからだろうな。


だって、人生においては、『学校を卒業する』なんて、人生の出だしも出だし、特に小学校のそれだとスタートラインにさえ立ってない状態だもんな。


あの子のこれまでの過酷な人生からすれば、ただの日常の一コマでしかないんだと思う。


壇上に上がって、前の子が卒業証書を受け取ってる間、僕たちの方を向いて立ってたあの子の姿も、服装を覗けはいつもの感じだった。少なくとも僕にはそう見えた。


そして名前を呼ばれて、校長先生から卒業証書を受け取った時も、普通だった気がしたんだ。


だけど、逆に、そんなあの子の姿が、なんだかとても逞しく思えた。


怯えて、僕を警戒して、部屋の隅で小さく丸まってたあの子が、こんなに堂々と、たくさんの人の前で普通にしてられるってことがすごいと思うんだ。




沙奈子……。立派になったね……。




本当なら、ここに、絵里奈と玲那も来てほしかった。二人にもこの沙奈子の姿を直接見てもらいたかった。


だけど、まだ、中学、高校と機会はある。


今日は本当にあくまで『通過点』なんだ。



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