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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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九百九十六 美嘉編 「虎の威を借る狐」

「じゃ、行ってくるね~」


千早ちはやちゃんが星谷ひかりたにさんに笑顔で手を振りながら、大希ひろきくんと沙奈子を連れて教室へと向かった。沙奈子のそれとよく似た服で、でも沙奈子のよりも少し短い膝頭までの丈のスカートをひらめかせて。


彼女も『寂しそう』って言うよりはむしろ『清々した』って感じなのかな。


卒業式をどう捉えるかっていうのもあくまで人それぞれだと思うから、僕は本人の自由だと思う。


感動して泣かないことを馬鹿にしたり責めたりする人は、他人の気持ちなんて分かってない。


たぶん、自分の好きなアニメのことで共感しない人を見下してる秋嶋あきしまさんと同じ。


だけど僕は、そんな僕たちのことを理解しろとも、彼に言うつもりはないんだ。


ただ、距離を置くだけ。


その方がお互いのためだと思うから。


人間は完全に分かり合えるとは思わない。話し合えば『必ず』理解し合えるなんていうのは幻想だとしか思えない。


だったら、距離を置くのが現実的な対処法だと思う。


『住み分け』ってことかな。


住み分けることすら嫌、何もかも自分の思い通りになって欲しいなんていうのはただの甘えなんだろうな。


……こんな時まで秋嶋さんのことを考えるなんて、相当、頭に来てるんだろう。僕も。


今は沙奈子の卒業式のことに集中したいんだけど……。


「何か心配事でもあるのですか…?」


不意に星谷さんがそう聞いてくる。


どうやら顔に出てしまってたみたいだ。


「心配事って言うか……」


つい曖昧な答え方をしてしまった僕にピンときたのか、


「秋嶋さんのことですか?」


って、ピンポイントで図星を突かれてしまった。


確かに今、僕が気にしそうなことと言えばそれだっていうのは確かだから、彼女にはお見通しなんだろうな。


すると星谷さんは、


「探偵に依頼して二十四時間監視していただいています。何か動きがあればすぐに連絡が入るでしょう」


だって。


お願いしたわけでもないのにそこまでする彼女も、別の意味で怖かった。


本当にすごいと言うか何と言うか……。


つくづく敵に回したくない人だな。


だけど、味方にすればこれほど頼もしい人もいない。


ただ、あまり彼女に頼るのも違うのかなとも思ってる。なるべく自分たちの力で何とかして、自分たちじゃどうしようもないことについては力を借りるようにしなくちゃね。


でないと、彼女の力をまるで自分のそれみたいに勘違いしてしまって、横暴になってしまったりっていうこともありえるし。


『虎の威を借る狐』


ってことかな。



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