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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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九百九十五 美嘉編 「真摯な学校」

「本当は礼服にしようかとも思ったのですが、やり過ぎて千早ちはやより目立ってしまっては具合が悪いと思い、ビジネススーツにしておきました」


山仁やまひとさんの家で合流した時に、僕が何となく見詰めてしまってたのに気付いた星谷ひかりたにさんがそう言ったんだ。


僕も、いつも仕事で着てるスーツだったから、お互いに浮いた感じにならなくてよかったと思う。


ただ、卒業する子供たちの格好は、『普段着で』という学校側の申し出とは裏腹に、思った以上に気合の入った格好をした子が、特に女の子に多かった気がした。


大学とかの卒業式では定番の袴を着た子も結構いる。


たぶん、学校側は、極端な恰好をして変に浮いてしまわないようにっていう配慮から『普段着で』って言ってくれたんだろうけど、ここまで来ると完全な普段着だと逆に浮いてしまいそうだな。


沙奈子の格好も、割と最近では流行らしい、ちょっとアイドルっぽい服だった。でも沙奈子にはミニスカートはイメージになかったから、膝下までの長さのあるものだけど。


おしゃれな子なら普段着にしててもおかしくない感じで、でもちょっと頑張ってる感じもあって、他の子達に比べてもひどく浮いた感じにはなってないと思ってホッとした。


正直、僕にとって『卒業式』なんてなんの感慨もない面倒臭いだけの行事でしかなかった。小学校の卒業式どころか、中学の時のも高校の時のも覚えてない。辛うじて大学の時のがうっすらと記憶に残ってるだけだ。定型文をただ読み上げてるだけの学長の話が酷く退屈で、眠ってしまいそうになったっていうね。


目を潤ませながら見送ってくれた鷲崎わしざきさんには申し訳ないけど、その程度のただの『通過点』でしかなかった。


どうやらそれは沙奈子にとってもそうみたいで、


「緊張する?」


って聞いても、


「……」


平然とした表情で首を横に振るだけだった。中学に上がると言っても千早ちはやちゃんも大希ひろきくんもそのまま一緒だし、クラスの子のほとんどが同じ中学に進級するだけだから、まあ、『校舎が変わるだけ』って感じなんだろうな。


確かに先生とはもうあまり会えなくなるんだろうけど、そっちもあまり思い入れはないみたいだ。僕と同じで。


ただ僕とは違って、先生のことを嫌ったり軽蔑したりはしてないみたいだけど。


丁寧に接してもらえたからだろうな。


千早ちゃんとの一件ですごく真摯に対応してくれた水谷先生はもういない。転任になったから。すごく感謝してるけど、今はどこの小学校にいるのかも分からない。


今でも頑張ってくれてるんだろうか。この学校と同じように生徒にも先生にも真摯な学校ならいいんだけど……。



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