九百八十九 美嘉編 「覚悟の上なんだよね?」
三月十三日。水曜日。曇り時々雨。
いつものように、みんなでの夕食。
玲那が切り出した。
「なんかさあ、一期ではキャラたちの関係がすっごく良くて確かに理想的な感じだったんだよ。それが二期ではこう、しょっちゅうケンカ腰で言い合いしてたりしてギスギスしてるっていうのは確かにあるんだよね。
でも、自分にとって理想的じゃなくなったら罵っていいって、なんかそれ、違う気がするんだよ。一期で描かれてた『理想的な関係』を、自分で否定しちゃってる。あれを見倣って自分もそれを再現しようとするんじゃなくてさ……。
私は、アニメで見たこと聞いたこと感じたことでいいなと思ったことについては、自分でもそうしたいと思うんだ。人に優しくするのっていいなと思ったら、自分もそうできるように努力しようと思うんだよ。
……だけど、あっきーはそうじゃなかったんだね……。
それが分かったから、私はもう、一緒にはいられない……。
あっきーが自分の信念を貫きたいならそうすればいいと思う。でも、私はそれにはついていけない……」
「玲那……」
「玲那さん……」
「……」
悲しそうな玲那の姿に、絵里奈が、鷲崎さんが、沙奈子が表情を曇らせた。
その様子を見て、僕は怒りが込み上げてくるのを感じてた。
秋嶋さんは、いったい、アニメから何を学んだの?。
自分の気に入らない相手は攻撃していいってこと?。
アニメが原因で、今、僕の大切な人たちの表情を曇らせてるなら、僕はアニメなんか要らないとさえ思ってしまう。
アニメの中のことを現実に持ち出さないでほしい。
こう言うと秋嶋さんは、
『あんなふざけたアニメを作った奴らはリアルにいるんだから、リアルで批判するのは当然だ!』
とか言って自分を正当化するのかな。
現に今、僕の大切な人たちの表情を曇らせているのは、彼自身なのに。アニメを作った人たちじゃないのに。
理由があるからってそういうことをしていいと思ってるの?。秋嶋さんが大好きだっていうそのアニメは、そういうことをしていいと教えてたの?。
そんな人が沙奈子のことを好きだとか玲那のことを守りたいとか言ってたんだとしたら、ゾッとする。
僕だってこうして秋嶋さんに対して怒りの感情を抱いてるんだから、自分の大切なものを馬鹿にされたり貶められたって感じたら腹が立つのは仕方ないと思う。そういうことに対して怒ったりもするなと言いたいわけじゃないんだ。
ただ、そうやって感情を誰かにぶつけるなら、それがもたらす結果を覚悟した上でやってるんだよね?。
自分が『好きだ』『守りたい』と言った沙奈子に嫌われるのも、当然、覚悟の上なんだよね?。




