九百八十四 美嘉編 「先生の手を煩わせなくても」
三月五日。火曜日。晴れ。
『何十人もの生徒を一度に受け持ち、教鞭をとり、その上で本来であれば親が教えるべき『人としての在り方』についてまで教え諭すというのは、負担が大きすぎるのではないでしょうか』
星谷さんが言ったその言葉は、僕もすごく感じてたことだった。だから僕は、そういうのを学校に期待するのはやめようと思ってたんだ。
僕自身が小学生だったり中学生だったりした時、教師は生徒のことなんてほとんどロクに見てなかったと思う。
だけどそれは今から考えたら、当然かなとも感じてしまう。
だって、三十人も四十人も、しっかり見てられないよ。
僕なんて、沙奈子と玲那を見てるだけでも精一杯なのに。
だから、玲那は学校に行ってるわけじゃないからまだしも、沙奈子のことは僕がちゃんと見て、学校で勉強に集中できるようにしてあげて、それで送り出してあげたいと思うんだ。
先生の手を煩わせなくても済むようにしてさ。
それが本来の形なんじゃないかな。
って感じるんだ。
先生の手を煩わせないようにできれば、それだけで学校に協力してることになる気がする。
僕は結局、PTAとして何もできなかった。
鷲崎さんは、夜の見回りに今でも一ヶ月に一回くらいのペースで自主的に参加してるそうだ。そこで他の保護者の人たちとも交流を持ってるらしい。コミュニケーション能力の高い彼女ならではだな。
だけど、そんな鷲崎さんでさえ、以前の学校では他の保護者の人とは積極的に関わろうとしなかったって。結人くんのことで一方的にあれこれ言われるから。
本当はいろいろと言い返したいこともあったらしい。
『そんなこと言って、あなたは自分の子供が学校で他の子に何をしてるのか知ってるの!?』
ってね。
一方的に言ってくる保護者の子供が、学校で他の子をイジメてたなんていうのもよくある話だって聞く。
そういうことがあると、PTAとして協力するっていうのもしにくくなるよね。
割と関係は良好らしい沙奈子の学校でも、PTAの役員とかは、なり手を見付けるのに苦労するって聞いてた。
難しいな。確かに、親としても仕事もしながらだと、正直、負担が大きい。
昔は家族が多かったから、誰かが協力できたんだろうけどな。核家族で共働きだったり、山仁さんのところのように片親だったりっていうところも今は少なくないだろうな。鷲崎さんのところもそういう意味では片親みたいなものか。
僕のところは、本当なら、五年生の時からは四人で暮らすことになってたはずだから、協力したかったんだけどな……。




