九百六十八 美嘉編 「私の方からお断りですし」
二月十二日。火曜日。曇り。
星谷さんのレポートは、あとはもう誤字脱字等の細かい部分の校正だけになってるらしい。
「玲那さんの事件を基にして大丈夫?。玲那さんに迷惑かかったりしない?」
田上さんはそう心配してくれたけど、当の玲那が、
「これだったら大丈夫だよ。実際の事件の裁判資料を基にした架空の事件ってことでいけると思う。裁判資料って誰でも見られるようになってて、ちゃんとチェックできるようになってるんだよ。でないと、おかしな裁判が行われてて外からチェックできないから」
と平然としてたから、大丈夫って僕も思えた。
実際に読んでみても、細部が違うから『これって玲那のことだ』とは思わなかったし。
だけど逆に、大まかなことしか知らない人だと、玲那の事件を連想するかもしれないな。
でもやっぱり、裁判資料を見れば分かるような部分がほとんどだし、『架空だけど実在するかのようなリアリティ』を持たせるために脚色した部分は玲那とは違ってるしで、だから僕も、
『どこかにいる、玲那と同じような経験をした女の子』
っていう印象を受けたんだから、大丈夫じゃないかな。
それにこれは、世の中に公表するためのものじゃなくて、あくまで特色入試の審査用だから、基本的には表に出ないものだし。
「なんかそういうのってフィクションだと『フラグ』って話なんだけどさ、その辺、ピカは抜かりないよ。これが無断で流出でもしたら容赦しないもんね。ピカ」
ビデオ画面の向こうでそう言った玲那に、星谷さんは、
「もちろんです。それで万が一、私の合格が取り消されるようなことになったとしても、そのような真似を許す大学など私の方からお断りですし」
とのことだった。たぶん彼女なら、本当にそうするだろうなっていうのが実感できたのだった。
二月十三日。水曜日。曇り。
星谷さんのレポートはものすごい分量だったけど、今はデジタルデータだから手直しも楽だな。僕がまだ大学生だった頃は、デジタルデータに移行しつつも教授とかによっては、
『手書き以外は認めない!』
っていう人もいて、結構大変だった覚えがある。
こういう部分も時代によって変化していく。
変化と言えば、テレビのニュースで、小中学校へのスマホの持ち込みも許可する方向で文科省が検討に入ったと聞いた。
と言っても、沙奈子は元々スマホは持ってないし欲しがらないし、千早ちゃんは星谷さんとの連絡用に持たされてるけど、今はゲーム機としてしか使ってないし、大希くんもゲーム機代わりに電話契約してない中古のスマホを使ってるだけで外では使わないし、正直、僕たちにとっては別にどっちでもいい話だったかな。




