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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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九百六十三 美嘉編 「殴れるもんなら殴ってみろよ!」

二月五日。火曜日。曇り。




田上たのうえさんの言った、


『本当に自分の意見に責任もって個人を批判とかしたいんだったら、本人の目の前でやるべきなのにさ』


って言葉は、言いたい気持ちは僕にもあるんだけど、そこまで言い切ってしまうのはさすがに『若さゆえ』って感じがしないわけでもない。


批判するだけなら別に本人の目の前でする必要はないかなって思ってしまうんだ。例えば国会議員とかに対する批判を本人の前でしようと思っても、普通にSPとかに止められそうな気がするし。他にも有名人相手にそれをしようと思ったら相当順番待ちをしないといけないかも知れないし、正直、現実的じゃないって気もする。


ただ、『批判』って部分を『攻撃』、いや、『口撃』って言いかえるのなら、僕もそう思う。自分より確実に弱い相手じゃなくて、間違いなく強い相手であっても目の前に立って口撃できるのなら、それなりにすごいとは思うかな。


体力とか腕力的には確実に強い相手でも、それが立場的に反撃できない人だったりしたら、それはやっぱり『弱い相手』かもしれない。お客の立場で店員相手に攻撃的になるとか、手を上げられないのが分かってて教師を罵ったりするのがこれか。


そして、匿名に隠れて他人を攻撃してる人たちは、相手に反撃させないようにするために、匿名に隠れてるんだよね。たとえ反撃されそうになってもすぐに逃げられるように。


それってやっぱり、


『自分は卑怯者です』


って言ってるのと同じじゃないかな。


僕は、そうはなりたくない。






二月六日。水曜日。雨のち曇り。


朝、テレビで天気予報を見ていると、


「お昼は三月並みの陽気になるでしょう」


と言ってた。実際、三月並みかどうかは分からないけど、かなり暖かかった気がする。




最近は、子供でも、教師や大人に対して、


『殴れるもんなら殴ってみろよ!』


とか挑発する子がいるって聞く。だけど少なくても沙奈子が通ってる小学校にはそんな子はいない。


……いや、以前は『いた』のか。


千早ちはやちゃんだ。


星谷ひかりたにさんによると、千早ちゃんはそれっぽいことを何度か口にしたことがあったらしい。


だけどもう、今は言わない。言う必要がなくなったから。


反撃してこない相手、反撃できない相手を攻撃して憂さ晴らしとか鬱憤晴らしをする必要がなくなったから。


沙奈子や、大希ひろきくんや、今の千早ちゃんを見てるとすごく分かる。


他人を攻撃する必要がない人は、攻撃しないんだ。


今の玲那もそうだな。今の玲那は、誰かを攻撃する必要がない。


教師や大人に対して、


『殴れるもんなら殴ってみろよ!』


とか言う子は、そうやって誰かを攻撃せずにいられない状態にあるってことなんだろうな。


もし沙奈子がそんなことになったら、僕は本当に自分が情けない。



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