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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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九百五十九 美嘉編 「自分たちの幸せが実は」

一月二十九日。火曜日。曇り。




仕事が終わって沙奈子を迎えに行った時、星谷ひかりたにさんと玲那がビデオ通話でやり取りをしてた。特色入試で提出する本番用のレポートの内容についてだった。


「結構踏み込んだ表現になってしまっていると思うのですが、いかがでしょう?。もしこれで玲那さんにとって不快であれば修正いたしますが」


そう問い掛ける星谷さんに、玲那は静かに首を横に振ってた。


「ううん。それでいいと思う。それくらい思い切らないと何があったのか伝わらないと思うし……」


応える玲那に絵里奈が、辛そうな表情で寄り添ってた。こっちでは、田上たのうえさんが顔を覆って、波多野さんが唇を噛みしめて、イチコさんが顔を伏せてて、山仁やまひとさんは目を瞑って腕を組んでた。


玲那がどうして実のお父さんを包丁で刺さずにいられなかったのか、その核心部分の記述をどうするかという話だ。


それをわざわざみんながいるところでする必要があるのかっていう意見もあるかもしれないけど、玲那は敢えて何があったのか、ここにいるみんなにはちゃんと知っていてほしいと思ったみたいだ。


だけど、山仁さんはともかく、イチコさんや波多野さんや田上さんにはショックが強かったかもしれない。


でも、それでも、遠からず成人を迎える年齢のイチコさんたちには、


『事件というものはこうして起こる』というのを知っておいてもらいたくて、敢えてそれに触れたんだ。


もっとも、玲那自身は、今回のレポートの内容よりももっと詳しい話を、裁判の時に傍聴人の前でしてるけどね。それを、沙奈子も聞いてる。


正直言ってそれに比べたらまだまだおとなしい表現にはなってたかな。


そしてこの中では、波多野さんにとっても他人事じゃない話なのか。


「……こんなヒドイことができるなんて、人間って本当に残酷な生き物だね……」


不意にそう口を開いたのは、イチコさんだった。


山仁さんにすごく大切に育てられてきて、人間の残酷な一面とは無縁に育ってきたイチコさんだけど、彼女自身、お母さんをガンで亡くしてるし、何より、彼女のお父さんである山仁さんのお父さん、つまりイチコさんのお祖父さんは、『七人殺しの役童』って呼ばれた元死刑囚だったんだ。


だからイチコさんにとっても、こういう人間の『負の一面』は無縁なことじゃないんだろうな。


大希ひろきくんもいずれ大きくなったら聞かされる話でもある。


自分たちの幸せが実はとても危ういバランスの上で成り立ってるというのを敢えて知ることで、それがどんなに大切なのかを実感するということなんだろう。



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