九百五十七 美嘉編 「それは一生」
一月二十六日。土曜日。曇り。
昨日の夜から降り出した雨は朝にはやんだけど、風が強い。
と思ってたら、お昼頃から雪が降り始めた。しかも結構な勢いで。
この辺りでは、普段はそんなに雪は降らないんだけど、年に一回程度、そこそこ積もることがある。
ただ、『大雪』と言うと、僕たちにとってはあまりいい思い出じゃないのも正直なところかな。
玲那のあの事件のことを思い出すから。
だけどもう、玲那にはあんな事件を起こす理由がない。
玲那を苦しめた実のお父さんはガンで亡くなったし。
だからそういう意味では不安はないんだ。
雪はそこそこ強いけど、交通機関に乱れが出るほどじゃなかったから、絵里奈と玲那には会いに行く。
それが僕たちの日常だから。
一月二十七日。日曜日。曇り。
雪は、夜の間は結構降ってたみたいだけど、朝までにはやんで、しかもそんなには積もらなかった。
家や自動車の屋根には積もったけど、道路にはほとんど積もってない。
だからいつもの通り、千早ちゃんと大希くんがお昼を作りに来る。
と、
「やほ~、沙奈~♡ こ~んに~ちは~♡」
そう言って玄関が開けられた時、見えたのは千早ちゃんの姿じゃなくて、雪だるまだった。それも、人の頭くらいの大きさの。
「えへへ~♡」
なんて、赤いほっぺで笑いながら雪だるまの後ろから千早ちゃんが顔を出す。その脇からは、
「こんにちは~♡」
と大希くんが。
正直、雪だるまを見ても『あの時』のことを思い出してしまうけど、だからって千早ちゃんのことを責めたりしない。沙奈子も何も言わない。ただ微笑んでるだけだ。
僕たちはそうやって現実と向き合っていく。あの事件からただ目を逸らしてなかったことにするんじゃなくて、あれが現実なんだってことを受け入れていく。
だからこそ、淡々と日が過ぎていくんだと思うんだ。
玲那の執行猶予の期間が過ぎるまで。
でも、それも所詮はただの通過点に過ぎない。執行猶予の期間が過ぎたからって何も変わらない。事件はなかったことにならないし、玲那についた『前科』も消えない。
それは一生、付き合っていかないといけないことだ。
『罪を犯す』っていうのは、そういうことなんだ。
僕は改めてそれを噛みしめる。
星谷さんがいてくれたからまだ僕たちは辛うじて平穏な暮らしができてる。
だけどそれは、玲那が本当はとても心の優しい、人を傷付けたりするのが嫌いな子だっていうのを認めてもらえたからだっていうのもある。
そうじゃなかったら、きっとここまで力にはなってくれてない。
波多野さんのお兄さんの件で尽力したのも結局、『波多野さんのお兄さん』だからであって、あくまで波多野さんのために動いてただけだからね。




