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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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九百五十四 美嘉編 「明確なライン」

一月二十三日。水曜日。曇り。




『他人の家庭に口出しするのが正しいとは私も思いません』


星谷ひかりたにさんはそう言いながらも、同時に、


「ただし、刑事事件に相当するような事例については関係各所に通告することを躊躇うべきではないとも思います。


そういう意味では、千歳さんが千早ちはやに対して『お小遣いを盗んだ』という疑いを掛け、暴力を振るったという事例がある意味では分水嶺となるのかもしれません。


あの事例においては、千歳さんが引き下がってくださったことで告発にまでは至りませんでしたが、もし、あのまま引き下がることなく、千早への暴力を続けるようでしたら、私は容赦なく刑事告発していたでしょう」


とも言ってた。彼女ならそれこそ口だけでなく本当にやってたと思う。


千早ちゃんを守り、結果として千早ちゃんのお姉さんの千歳さんにもそれ以上罪を重ねさせないためには断固とした対応をってことだろうな。


多くの場合は、たぶん僕もそうだけど、そんな状況に直面しても躊躇わずに警察に通報とかなかなかできない気がする。なんとかそれ以上酷いことにならずに収まってくれるのを期待して、待ってしまう気がするんだ。


でもそれで結局、取り返しのつかないことになってしまったりする。


虐待事案とかで、児童相談所に通告されてたのに、そこで踏み込んだ対応を躊躇ってしまったことで悲しい結果になったという事件も何度もあったんじゃないかな。


それくらい、思い切った対応っていうのは簡単にはできないんだろうな。


星谷さんみたいに容赦なく決断しそうっていう印象がある人って意外に少ないかもしれない。


むしろ人によっては、


『何もそこまでしなくても……』


って言うかもしれないけど、千早ちゃんのお姉さんの千歳さんの一件ではそこまでしなかったんだから、星谷さんがそれを決断するっていうことは、本当によっぽどの事例だって気もする。


だって、普通なら、千歳さんの件でも、


『とっとと警察に突き出せ!!』


って言う人が必ずいると思う。


でも、そんな風に勇ましいことを言う人って、実際にそういう現場を目の当りにしたら、本当にその通りにできるのかな。


結局、口先だけで実際にはできなかったりするんじゃないのかな。


僕も、さっきも言ったとおり、決断できない可能性の方がずっと高いって気がするんだ。


『正常性バイアス』っていうのかな?。


『きっと大丈夫』


って考えてしまってそこで思考が止まってしまうってやつ。


だけど同時に、そういうのがなかったら、今度は本当に些細なことでも大騒ぎしてしまうことにもなりそうだし、やっぱり線引きが難しいな。


その点、星谷さんには明確なラインがあるみたいだね。



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