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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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九百四十四 美嘉編 「貪欲だなあ」

一月十二日。土曜日。曇り。




センター試験まであと一週間。今日も田上たのうえさんは山仁やまひとさんの家で最後の追い込みをしてるらしい。


と言っても、やっぱりあくまで記憶違いがないかとかのチェックをしてるだけみたいだ。


今さら焦って詰め込んだところで『焼け石に水』ってことなんだろうな。


田上さんのことも気になるけど、だからって僕たちが変に気負っても、それがまたプレッシャーになるかもということで普段通りを心掛ける。


だから今日も、絵里奈と玲那に会いに行く。


今日はいつもの人形ギャラリーだ。


「楽しみだね、沙奈子ちゃん…!」


「うん」


人形ギャラリーの近くで合流して歩きながら、何やら新作が展示されるっていうんで絵里奈と沙奈子は少し興奮気味だった。


到着すると早速展示室の方へと行ってしまった二人を見送り、僕と玲那は喫茶スペースへと入る。


「フミもいよいよだね。上手くいってくれるといいんだけど」


テーブルに着いて、出された水を口に含みながら玲那が『言う』。


左手に水、右手にスマホを持ち、ほとんど手元を見ないですごい速さで操作する様子は、見慣れてても感心させられる。口では喋れない分、星谷ひかりたにさんのアイデアで開発されたアプリを使って『しゃべる』ことに、彼女の感覚が最適化された結果なんだろうな。


人間は、一つの機能を失ってもそれを補うために他の機能が発達するとは聞くけど、これもその一つなのかもしれない。


しゃべる時、自分がどう口を動かしてるか意識してる人は少ないんじゃないかな。それと同じで、もう、無意識のレベルでできるようになってるんだろう。元々、スマホの操作が巧みだった玲那だからこそっていうのもあるかもしれないけどさ。


その一方で、星谷さん自身の入試に加えて、今は田上さんの試験勉強を見ているというのもあって、アプリのバージョンアップは止まってる状態だった。


実際にアプリを開発してるのは専門の会社でも、星谷さんによるチェックも必要だからね。


だけど、正直言って何も困ってない状態かな。今の段階でも不足に感じることはないって。


だから、僕自身が今の状態に慣れてることもあって、意識しないとまったく違和感を覚えない。それどころか、ずっと以前からこうだったみたいな気さえしてる。


それでも星谷さんの目指すところはさらにその先で、スマホをかざして口を動かすと、カメラがその動きを読み取ってスマホが代わりに『しゃべって』くれるというものの開発も続けてるらしい。


僕としては今でも十分に問題なく行けてる気がするんだけど、星谷さんは本当にそういう意味では『貪欲』だなあ。



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