九百四十二 美嘉編 「最強の組み合わせ」
一月十日。木曜日。晴れ。
一月も十日になってさすがにお正月気分もすっかり抜けた気がする。
まあ元々、いつもと変わらないように過ごしてたから、あんまり『正月気分』っていうのもなかった気がするけどね。
星谷さんはかつて、他人を見下して攻撃的に振る舞う、『嫌な人』だったらしい。
そんなの、今では本当に想像もつかないけどね。
だけど彼女は、そういう自分が自分自身にとって不利益だと気付いたからこそ、自分で自分を変えてきたんだと思う。
彼女にとっての『不利益』。
それは、
『イチコさんと友達でいられないこと』
そして、
『大希くんに好かれないこと』
なんだろうな。
彼女がイチコさんと友達でいられるからこそ大希くんも星谷さんと仲良くできるんだろうし、大希くんにとっても、お姉さんであるイチコさんが認める人だからこそ安心できるんだっていうのが見ててすごく分かる。
これがもし、今でも星谷さんが他人に対して攻撃的な人だったら、決してこうはなれない。
その実感がすごくある。
星谷さんは今の星谷さんになったからこそ、こうして幸せになれたんだ。大希くんと親しくいられるっていう幸せを掴めたんだろう。
以前は、大希くんが沙奈子の『彼』とかになってくれたら安心できそうかなと思ってたけど、今ではすっかりその考えは薄れてしまった。なにしろ沙奈子自身が彼のことをそういう目で見てないっていうのが分かるから。
沙奈子にとってはどこまで行っても『友達』なんだろうなっていうのが伝わってくるんだ。
だからと言って結人くんと沙奈子がっていうのは、今のところはまだピンとこないかな。
僕が見た夢の中の『鮫島結人』は沙奈子の旦那さんになってたものの、それが正夢になるっていう予感はまだない。
ただ、
『そうなっても不思議じゃないかな』
っていうのはあったりもする。
沙奈子と結人くん。
有り得ない組み合わせじゃないっていうのも正直なところかな。
もちろん、そうなるかどうかはまるで分らない。
だけどもしそうなるとしたら、星谷さんと大希くんみたいにいい関係でいてほしいと、沙奈子の父親としてすごく思う。このまま彼が穏やかな人になっていってくれるなら、たとえ少々人付き合いが下手でも問題ない。
だって、僕自身がそうだし。
自分が人付き合いが苦手なのに、他人にはちゃんとできなきゃダメだなんて言えないよ。
それで言うと、星谷さんと大希くんは、どちらも人間関係の点では不安はなさそうだ。
理知的で理性的で丁寧に人と接する星谷さん。
必ずしも積極的ではないけど、根っこの部分は人懐っこくて割と誰とでも親しくなれる大希くん。
うん。最強の組み合わせじゃないかな。




