九百三十五 美嘉編 「人として道理に外れたことを」
『あくまで対等な取引相手だからね』
これは、将来、大希くんがもしコンビニでバイトとかした時に、より一層、実感できることなんだろうな。
自分が同じように失敗した時にお客から強く詰られたりしてそれで嬉しいかっていうことでね。
それに、自分が詰った店員が、どこかでは今度は自分の<お客>として接することになるかもしれない。
そうなった時にもし何か失敗をしたら、それこそこの時とばかりに詰られたりするかもしれない。
世の中には、自分が視聴者の立場だからって芸能人を馬鹿にしたり罵ったりする人がいるけど、そういう人は、その芸能人が『お客』として自分の前に現れることを考えてるんだろうか?。
『視聴者=お客』みたいに考えて自分の方が立場が上だとか思ってるんなら、その芸能人が『お客』として自分の前に現れたら切り替えられるんだろうか?。
たまにいるよね。自分が勤めているところに芸能人とかがお客としてきたのを、ネットに面白おかしく書いたりする人が。
相手は芸能人だとしても『お客』なんだよ?。『視聴者=お客。だからお客である視聴者の方が偉い』って言うんなら、どうしてお客に対してそんなことをするの?。
こういう風に考えると、自分がお客の立場だからって横暴な態度にでるのがどれほど道理に外れてるか分かると思うんだ。
僕は、沙奈子や大希くんや千早ちゃんにそんな人になって欲しくない。だから子供の前でそういう態度をとることもしないでおきたい。
それは星谷さんも同じ考えだった。それもあって、誰に対しても丁寧に接するようにしてるらしい。
大希くんの前で、人として道理に外れたことをしたくないって。
そんな姿を見せたくないって。
だけど、同時に彼の前では、気取ってない、『素の自分』でいたいとも思ってるって。
だから、一緒にお風呂に入って鼻血を噴いて倒れたりしても、それ自体が飾ることのない自分の姿だからっていうことで誤魔化そうとは思わないそうだ。
『人として道理に外れた姿は見せたくない』
というのと、
『自分のみっともない姿も誤魔化さずに見せたい』
というのは、一見、矛盾してるようにも見えるかもしれないけど、前者は『他人を傷付けようとしてる醜い姿』で、後者はただ単に『素の自分』ってだけだから、明確に違うんだと思う。
そんなわけで、星谷さんは、顔を真っ赤にしながらも、
「さ~!。お風呂だお風呂~♡」
と音頭を取って歩いて行く波多野さんの後に続いて、みんなで一緒にお風呂に入りに行ったのだった。




