九百三十一 美嘉編 「遠足気分」
『相手に依存し、ただ守られるだけの存在ではなく、お互いに自分にできることで一緒に家庭を守っていきたい』
星谷さんはそう言ってるんだろうなって感じた。
それは、僕も思ってること。
もちろん、まだ子供の沙奈子が僕に一方的に依存して守られてるのは別にいいと思う。
子供のうちはむしろそうでないと、
『こんな風にして守るんだ』
っていうのを学べないと思うんだ。
沙奈子が料理をしたり人形のドレスを作ってそれが今、僕たちの家計を支えているっていうのは、あくまで彼女の特殊な境遇があってこそのものなんじゃないかな。
沙奈子が自分でそうしたいと思ってやってくれてるのならいいけど、僕はそれを当てにしたいとは思わない。それが当たり前だとは思わない。
あくまでまず、大人の側が大人としての責任を果たした上での話だと思うんだ。
星谷さんもたぶん、そう思ってるんだろうな。
だから僕たちはこうして家族のように振る舞ってられる。本来ならただの赤の他人のはずなのに。
「星谷さんにそう言ってもらえると僕たちもすごく心強いです」
それも正直な気持ちだった。彼女みたいなすごい人にそんな風に思ってもらえるなんて、身が引き締まる想いだ。
こうして気持ちを新たにして初詣を終えて、次はいよいよ旅館へと向かう。
徒歩で。
「マイクロバスを手配しようと思ったのですが、やはり渋滞などを考慮すると、歩いた方が確実かもしれないとイチコたちに言われましたので」
十人で列を作って歩きながら、星谷さんがそう説明してくれた。
すると波多野さんが、
「そうそう。自動車って調子よく走ってる時はいいんだけど、渋滞とかでのろのろ動いてると逆に気持ち悪くなったりするんだよね」
って。
それを聞いて絵里奈が、
「あ、それ、分かります。私も歩ける距離なら歩いた方が気分的に楽ですね」
と応えた。さらに玲那も。
「あ~、私もかな~。元々、自動車とかって苦手なんだよね。特に混雑してるバスとか、渋滞にはまってちょっと動いて止まってってされるとダメ。酔う」
そしたらイチコさんと大希くんと千早ちゃんと田上さんまで。
「私もダメ」
「僕も」
「あれはきついよね~」
「変に暖房効きすぎてたりすると辛い~」
なんて言うか、あるあるなのかな。
そんなこんなで、沙奈子や大希くんのペースに合わせながら歩いたからたっぷり三十分以上かかったけど、誰からも不満は出なかった。
かく言う僕も、こうして歩くのは嫌いじゃない。
なんて言うか、『遠足気分』って感じなのかも。




