九百二十三 美嘉編 「そんな彼女でも」
十二月二十九日。土曜日。曇り時々雨。
星谷さんもいよいよ入試が迫っているのに、その辺りでは普段と何も変わることがなかった。
彼女は、『特色入試』という、推薦入試の一種を受けるらしい。推薦入試と言ってもさすがに難関国立大学のそれだけあって、推薦を受けられたからって合格がほぼ決まるみたいなものじゃないって。むしろ学力さえしっかりしてれば合格の可能性が高くなる一般入試と違って、何か突き抜けた才能みたいなものを見せ付けないといけないらしい。
だけどその点でも、星谷さんは抜かりなく、玲那や、波多野さんのお兄さんの事件とその後の裁判のためにいろいろと動いた時のことをレポートにまとめ、さらには、執行猶予付き有罪判決を受けた玲那の社会復帰に向けてのシミュレーションとか、そのために沙奈子や絵里奈が作る人形の服の販売を事業として展開する際の事業計画とか、『声』を失った玲那のハンデが社会生活にどういう影響を与え、しかもそれを軽減するためには何をすればいいのかというのを、実際に今やってる玲那の『声』を再現するアプリの開発の諸々も合わせてレポートにまとめて提出し、担任の先生どころか校長先生まで驚かせたりしてるんだって。
そのレポートの内容も、学術研究のそれと比べても全く遜色のない、およそただの高校生が書いたものとは思えないレベルのものだから、既に今の時点で、
「彼女を採用せずに誰を採用するのか?」
とまで言わせているそうだった。
そこまでのことを、毎日、山仁さんの家で『会合』を開いたり大希くんや千早ちゃんや沙奈子の勉強まで見てるだけじゃなく、家事の手伝いまでした上でやってるんだから、『超人』ってこういうのを言うんだろうなって感じなんだ。
何しろ、そこまでのことをやってるっていうのを僕たちの前ではほとんど匂わせることなくだもんね。
彼女にとっては、本当に当たり前のことを当たり前にやってるだけなんだろうな。その『当たり前』のレベルが僕たちとは次元が違うほどのそれなだけで。
すごいなあ。
そんな彼女でも、大希くんの前ではメロメロになるんだから。
「今年は別荘の予約が取れませんでした。なので、年明けに旅館の方の予約を取りました」
って、嬉しそうに報告してきた。実は、僕と沙奈子と絵里奈と玲那も、それに参加することになってる。
本当は、星谷さんの家の別荘に行きたかったそうなんだけど、年末年始ずっと、来賓を歓待するために押さえられてしまってて、予約が取れなかったんだって。
だけどそれも結局、大希くんのためなんだろうな。




