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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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九百二十一 結人編 「素直じゃないコミュニケーション」

十二月二十七日。木曜日。曇り。




二十五日に、玲那主宰の、鷲崎わしざきさんの部屋に喜緑きみどりさんたちが集まってのクリスマスパーティーで、ようやく結人くんが言えた。


「ごめん」


って。


と言っても、部屋の隅で、ぽつりと、独り言みたいにして口にしたものだったから、それが鷲崎さんに対してのものか、喜緑さんに対してのものか、さっぱり分からないようなものだった。


それでも彼にとっては、もう、『一世一代』って言ってもいいくらいに思い切りの必要なことだったんじゃないのかな。


ずっと言い出すタイミングを計ってて、でも言い出せなくて、普通に考えたらこんなタイミングで、しかも誰に対してのものかも分からないようなそれじゃ、謝罪だとは受け取ってもらえないかもしれない、いい加減な『ごめん』。


だけど、鷲崎さんにはそれで十分だった。彼がそんなことを口にするだけでももう、涙が止まらなくなるほどのものだったんだ。


さらには、その様子を見届けた玲那ももらい泣きしてしまうくらいには。


「結人くん、立派だったよ。勇気を見せてくれてありがとう…」


泣きじゃくってしまって喋ることもままならなかった鷲崎さんの代わりに、玲那がそう言ったそうだった。


喜緑きみどりさんたちはどうしていいのか分からずに呆然としてしまったらしいけどね。


そんなこんなで三十分ほどでパーティーは終了して喜緑さんたちは部屋を出て行って、鷲崎さんと結人くんが二人きりになって、


「結人…、結人……。結人ぉ……」


そう何度も彼の名前を呼びながら、鷲崎さんは結人くんを抱き締めたんだって。


結人くんはもうさすがに泣いたりしなかったらしいけど、でも、大人しく抱き締められてたらしい。それまでの彼なら間違いなく、


「抱きつくな!。うっとうしい!!」


みたいに言ってたはずなのに。




こうして、結人くんと鷲崎さんは、僕と沙奈子がそうなったように、本当の親子のようになっていったんだ。


変に大人しくなってた彼も、ちょっとずつ以前の生意気そうな様子を取り戻していって、だけどそれは決して以前のとは同じじゃなくて、


『お母さんに甘えたいけど素直になれない男の子』


って感じのそれだったんだと思う。


だからいつしか、


「おデブ!」


「デブじゃない!」


のやり取りも復活してた。


けれど、以前のとは雰囲気の違う、それこそただの、


『本当は仲の良い母と息子の素直じゃないコミュニケーション』


としてなんだろうけどね。




結人くんのことはこれからもずっと、注意を払っていかなきゃいけない気がしてるのは正直なところだ。


でも、まずは一安心、かな。



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