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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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九百二十 結人編 「結人くんがやっと」

十二月二十六日。水曜日。曇り時々雨。




昨日、玲那主宰で、秋嶋あきしまさんたちとのクリスマスパーティーがあった。と言うか、喜緑きみどりさんと鷲崎わしざきさんのための、かな。


僕や沙奈子は参加してない。あくまで二人のためのパーティーだから。


鷲崎さんの部屋に、喜緑さんや秋嶋さんたちが、ケーキやピザやお寿司を持ち寄って集まって。


「ク…ク…ク、リスマス、おめでとう…!」


ほんの三十分程度のパーティーだけど、喜緑さんが緊張してしまって、鷲崎さんを前にちょっと意味不明な感じになってしまったらしい。


玲那は、鷲崎さんのパソコンのビデオ通話を通じて参加する。


結人ゆうとくんにしてみたらすごく気まずい状態だったんじゃないかな。居心地悪そうに部屋の隅に座ってたらしいし。だけど以前のような反抗的な様子はなかったとも聞いた。


でも、気まずくて居心地悪いのは喜緑さんたちの方も同じだったみたいだ。


「いや~、お通夜みたいなクリパでしたな」


とは、玲那の弁。


けれど…。


「けど、私はやってよかったと思うよ。だって、結人くんがやっと言えたんだから。


『ごめん』ってさ」


そうだった。会話も弾まない、みんなで黙々とケーキやピザやお寿司を食べるだけの何とも言えない微妙な空気の中、突然、結人くんが、


「ごめん……」


って、呟くように言ったんだって。


誰に対して謝ったのかも分からないようなものだったけど、それでも、彼にとっては、本当にやっとの思いで口にしたものだったんだと思う。いつ言えばいいのかずっとタイミングを計ってて、だけど口にできなくて、それがやっと口を吐いて出たんだろう。


その時、一番驚いていたのは鷲崎さんだった。


「結人……?」


って言ったきり固まってしまって、それからポロポロと涙を流して。


そしたら結人くんも、


「なんだよ…。なんで泣くんだよ……。謝ったじゃねーか。謝ったのになんで泣くんだよ……」


って、困った様子で……。


彼にしてみたら、自分が謝ったのに鷲崎さんを泣かせてしまって、本当にどうしたらよかったのか分からなくなってしまったらしい。


ここで喜緑さんが気の利いたことを言えたらよかったんだろうけど、そんなドラマみたいには上手くいかなくて、


「え…、と。え、と……」


とかオロオロしてるところに、玲那が、


「大丈夫だよ、結人くん。織姫は悲しくて泣いてるんじゃないから。嬉しいだけだから。嬉しくたって人間は泣くんだよ」


って。


それは、玲那自身の実感だったんだと思う。玲那も、嬉しくて泣いてしまったことが、絵里奈や香保理さんに出逢って以降、何度もあったから。それまでは、嬉しくて涙が出るなんてことを、彼女自身、知らなかったから。



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