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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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九百十七 結人編 「ゼロに戻るまでだけでも」

十二月二十三日。日曜日。晴れのち雨。




結人ゆうとくんの一件の後、鷲崎わしざきさんも少し変わった気がする。


なんか、さらに一層、『お母さん』っぽくなったのかな。


結人くんを見る目が優しくなったっていう印象があるんだ。


「本当にご迷惑をおかけしてすいませんでした」


一部屋ずつ回って、彼女は騒がせてしまったことをお詫びしてた。当然、僕のところには次の日にお詫びに来てくれた。


だけど僕は、お詫びしてもらわなきゃいけないほどの迷惑は被ってないっていうのが実感かな。


それでも、鷲崎さんの方の気が済まないっていうのもあるんだと思うから、素直に聞いておいた。


喜緑きみどりさんにももちろんお詫びしてる。


泣きはらした目で現れて、深々と頭を下げられて、むしろ申し訳なくて困ってしまったと、玲那には話したらしい。


ただ同時に、結人くんはその時には一緒じゃなかったから、


『なんだかなあ』


とも思ったって。


でもそれについても玲那から、


「彼のことは私たちに任せておいて。今はまだ上手にできないだけだから。


私も結人くんと同じだったんだ。それがお父さんや沙奈子ちゃんと出逢ったことで、とっくんたちとも上手く話ができるようになったんだよ。そういうものだと思うんだ。だからお願い」


玲那がそれを言うと、本当に真に迫るものがあると思う。


あの子も他人に対して強く心を閉ざしてしまってて、絵里奈や香保理さんや、ごく一部の友達とだけは普通に話もできてたけど、それ以外の人とは満足に話もできない状態が長く続いたって。


一度、他人と上手く関われない状態になってしまった人がそうじゃなくなるには、大変な努力と時間がかかるんだ。風邪に罹って治るみたいにほんの数日で良くなってしまうことはない。


それは、僕自身の実感でもある。


沙奈子が僕と打ち解けるにも時間がかかったし、僕自身も、沙奈子のことを受け入れるのには何ヶ月もかかった。


……いや、僕と沙奈子の場合は、『何ヶ月もかかった』じゃなくて、『何ヶ月しかかからなかった』って言った方がいいのかもしれないな。


普通ならもっと時間がかかっててもおかしくなかったんだろうし。


だから、結人くんが『変わった』と言っても、彼のことをよく知らない人でもそう思えるようになるまでは、これからまださらに長い時間が必要なんだと思う。


あの一件で彼が泣けるようになったのは、あくまでやっとスタートラインに立てただけなんじゃないかな。


沙奈子もそうだったけど、元々、マイナスからのスタートなんだ。ゼロに戻るまでだけでも長いんだよ。僕と沙奈子だって、ゼロに戻れた実感があるかって言われたら、いまだにないからね。



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