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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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九百八 結人編 「だとしたら僕は余計に」

『私、平気だよ。わざとじゃなかったんだもんね』


それは、普段の沙奈子ならまずしない言い方だった。たぶん、発表会の時の演技を参考にして、すこし芝居がかった感じでやってるんだろうなって僕には分かった。


だから僕も、彼女に合わせて、ちょっと意識してた。


結人ゆうとくん、もしかしたら、織姫さんを守ろうとしたのかな?」


いつもは『鷲崎わしざきさん』って呼んでるところを敢えて『織姫さん』って名前で呼ばせてもらった。彼にとってはきっと名前の方がしっくりくるだろうって思ったから咄嗟に出たことだった。


そのおかげかどうかは分からないけど、僕の問い掛けに、彼も、意外なほど素直に頷いてくれた。


そんな彼の様子に、僕もフッと気持ちが軽くなる。


「そうか、じゃあ、これはただの『事故』だね。間が悪かったんだ。でも沙奈子も大した怪我じゃなかったし、結人くんも見たところ無事そうだし、そんなに大騒ぎすることじゃないね」


少し身振りも加えて、その場にいるみんなに向けてそう言った。鷲崎さんと喜緑きみどりさんに対してももちろん、いまいち事情も分からずに彼を責めるような目で見てた秋嶋あきしまさんたちに対しても。


もちろんそれだけじゃ納得はできなかったんだろうな。唖然とした表情で、でもやっぱり怒ってる気配は完全には消えなかった。


だけど、その時、一番驚いていたのは、他でもない結人くん自身だったのかもしれない。


きっと僕を睨み付けるようにして見て、


「なんで怒らねーんだよ!?。こういう時は怒るもんだろ!?。『お前みたいな奴は殴らないと他人の痛みが分からないんだ!』とか言って殴るもんなんだろ!?。なんで殴らねーんだよ!?。意味分かんねーよ!!」


と、それまで彼がずっと疑問に感じてて、でも口にはしてこなかったなんだろうなってことを、一気に吐き出したみたいだった。


僕は本来、そういう風に激しい感じて言われるのがすごく苦手だったけど、この時には不思議と怖くなかった。それどころか、彼が正直な気持ちを口にしてくれたって気がして、なんだか嬉しさすらあった気がする。


だから、自然と口が動いてた。


「殴って欲しいのかい?。それは、反省する為かな?。それとも、殴られたことで責任を取った気になって自分が楽になりたいからかな?。


だとしたら僕は余計に殴ったりできないよ。結人くんにはちゃんと反省してもらわないといけないから」


「……!?」


僕の言葉に、結人くんがギクッと体を震わせるのが見えた気がしたのだった。



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