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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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九百六 結人編 「だめえっ!!」

十二月十八日。火曜日。晴れ時々曇り。




鷲崎わしざきさんの仕事はいよいよデッドラインが迫ってて、ここ数日、それこそほとんど眠れてないって。


沙奈子が言うには、それに呼応してか結人ゆうとくんの苛立ちもますます募ってるらしい。


と言っても、学校で暴れたりとか、誰かに乱暴したりとかっていうんじゃないそうだけど。ただとにかくイライラした気配を放って、誰も寄せ付けない雰囲気なんだとか。


その一方で、僕の方は以前の職場での、


『心を閉ざして仕事ををするだけの機械になり切る』


というあれが完全に取り戻せたみたいで、自分でも驚くようなペースで仕事をこなせた。感覚的には数十分しか経ってない気がするのにもう定時を過ぎてて、しかもその日の分も終わらせられてた。


「え?、もう終わったんですか!?」


課長さんにチェックをお願いすると驚かれた。自分ではあまり意識してなかったんだけど、どうやら僕は異様なほど仕事が早いタイプらしい。


もっとも、そうやって集中してる時の僕は、顔面蒼白、表情がまったくなくなり、瞬きの回数もものすごく減っててそれこそロボットのようだって洲律すりつさんにも言われたな。


「いわゆる、『ゾーンに入ってる状態』ってやつかもしれないですね!」


とも言われた。


そうなのか…?。




でもそんなことは実はどうでも良くて、思ったより早く沙奈子を迎えに行けたんだけど、それからアパートに戻った時、僕たちは思いがけないものを見てしまったんだ。


「あれ…?。鷲崎さんと、喜緑きみどりさん……?」


その時、僕には、アパートの二階の廊下ところで、鷲崎さんと喜緑さんが抱き合ってるように見えた。


だけど沙奈子には、別のものが見えてたのかもしれない。


「だめえっ!!」


突然、そんな声が僕の耳を叩いた。


「え!?」


と思った時には沙奈子が弾かれるみたいにして階段に向かって走り出してた。


さっきの声が沙奈子のだって僕が気付くよりも早く。


と、僕の目に映ったのは、さらに信じられない光景だった。


小柄な人影がアパートの階段を転がり落ちて、沙奈子がそれを受け止めようとでもするかのように階段下に駆け込んで、でも受け止め切れなくて吹っ飛ばされるという……。


「沙奈子っ!」


そこでようやく僕の体も動いて、倒れている彼女のところに駆けつけられた。


なのに沙奈子は、


鯨井くじらいくんは…?」


って。


そう言われてやっと、僕は、階段を転がり落ちてきたのが結人ゆうとくんだって気が付いたんだ。跳び起きるようにして体を起こした結人くんが、呆然と僕たちの方を見ていることに。



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