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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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九百四 結人編 「やっぱりタイミングっていうものは」

十二月十六日。日曜日。




鯨井くじらいくんがちょっとイライラしてる気がする……』


金曜日の夜、沙奈子からそう聞かされて、僕は意を決して昨日の昼食の時に尋ねてみた。


「結人くん。最近、何か気になることがあるのかな?」


極力、問い詰めるような感じにならないように気を付けつつ。


すると、僕がそう問い掛けたのを見て、鷲崎わしざきさんもハッとなる。


「結人、もし悩んでることとか思ってることとかがあったら私に話してね?。私たちは家族なんだから」


彼女のその言葉に、結人くんは目を逸らして、


「なんでもねえよ…」


って。


『何でもない』と言いながら、その時の彼の様子はとてもそうは思えなかった。


彼が何にイラついているのか、確かなことは分からない。だけど今の反応で、ますます鷲崎さんに構ってもらえないこととか、鷲崎さんがひどく疲れてるみたいだってことを心配してるとか、そういうのがありそうだなって気がしてきた。


それに加えて、


喜緑きみどりさんのこともあるのかな……』


とも思う。


仕事が忙しくてそれどころじゃなかったけど、鷲崎さんと喜緑さんがますます親しくなってきた気がするから。これまでは鷲崎さんの方から話しかけないと満足に会話にならなかったのが、喜緑さんの方から話しかけることができるようになってたみたいなんだ。


そのことについては、玲那からも、


「とっくんが一気呵成に攻めに出たようですぞ」


って聞かされてたし。


もっとも、『攻めに出た』と言ってもあくまで、


『彼のこれまでの人生の中で最も積極的になってる』


っていうだけの話で、元々対人関係に積極的な人から見たらそれでも、


『なにウジウジしてんだ?』


とか言われそうなレベルだとは思うけどね。


部屋の外で顔を合わすたびに挨拶をするとか、


「お仕事大変そうですね。でも、体には気を付けてください」


と気遣うとかその程度らしい。


だけど喜緑さんにとってはものすごく勇気のいることで、彼はそれを振り絞ってるんだろうな。


ただし、結人くんにとってそういうのは、鷲崎さんに対して『ちょっかいをかけてる』っていう風にも見えるのかもしれない。


そういう諸々が絡み合って、彼をイライラさせてるんだって気がした。


そこで僕は、昼食を終えて二人が部屋に戻った後で、玲那に、


「もしかしたら結人くんがイライラしてる原因の一つが喜緑さんかもしれないから、取り敢えず鷲崎さんの仕事が一段落付くまでちょっと自重するように言っておいてもらえないかな」


とお願いした。


本当ならそんな風に言いたくはないんだけど、やっぱりタイミングっていうものはあると思うんだ。鷲崎さんの仕事さえ一段落ついて、それで余裕が戻ったらまたアプローチしてもらえばいいんじゃないかな。



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