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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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九百三 結人編 「寝てませんよ!」

十二月十五日。土曜日。昨日の夕方から降り出した雨は朝にはやんでいた。




「お父さん、あのね…」


昨日の夜、寝る時になって、沙奈子が不意にそう切り出した。その調子に大切なことだと僕も察して、意識を向けて、


「なに?」


と聞く姿勢を整えた。すると沙奈子は、


鯨井くじらいくんがちょっとイライラしてる気がする……」


って。


「え…?。そうなの?」


思わずそう聞き返してしまう。


結人ゆうとくんがイライラしてる…?。


沙奈子はそういうことに敏感な子だから、その沙奈子が『イライラしてる』と感じるのであれば、それは確かにそうなんだろうな。


このところ一緒に食事できなかったから、彼の様子を直接見ることができなかった。そこで僕は、


鷲崎わしざきさん、今日はお昼こっちで食べませんか?。たまには気分転換も必要だと思うんです」


と、電話を掛けさせてもらった。


「そ…、そうですね。そうします」


電話越しにでも疲れてるのが分かる感じの声で、僕も少し辛くなる。だから少しでも栄養のあるものを摂って、回復させてほしい。


すると、お昼前に結人くんと一緒に僕たちの部屋に来た鷲崎さんは、何とも言えない雰囲気を纏ってた。


化粧っ気のない顔にはクマが浮き、頭はボサボサ、明らかに生気のない表情だ。


「あ…、大丈夫です。仕事が立て込んでくるとだいたいいつもこの感じなんで…」


たぶん、彼女を見た僕があんまりにも驚いた表情をしてたんだろうな。鷲崎さんに逆に気を遣われてしまった。


まるで幽霊のように上がってきてコタツに入った鷲崎さんは、沙奈子がお昼の用意をしてる間にコタツに突っ伏して眠ってしまってた。


そんな彼女に続いてコタツに入った結人くんからは、確かに少しイライラした気配が。


その様子を見てピンときた。


『鷲崎さんのことが心配なんだ』


って。


鷲崎さんの仕事が大変で構ってもらえないとか、僕もびっくりしてしまうような様子になってるとか、でも鷲崎さんのために何もしてあげられない自分が悔しいとか、そういうのが複雑に絡まった感情が彼の中に見える気がする。


とは言っても、こればかりは僕も手出しも口出しもできない。彼女の仕事だから。


僕たちにできるのは、ヒドイ格好になっててもそれを笑いものにしないとか、コタツに涎を垂らして寝てても責めたりしないとか、その程度だと思う。


そして沙奈子には、少しゆっくりと用意をしてもらって、十分程度だったけど、鷲崎さんには仮眠をとってもらうことにしたんだ。


「用意、できましたよ。起きられますか?」


すっかり用意ができてから声を掛けると、


「は…、ひゃいっ!?。寝てません、寝てませんよ!」


って跳び起きたのだった。



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