八百九十七 結人編 「ルールは破る為にある!」
十二月八日。土曜日。晴れ。でも、夕方から急に冷え込んできた。
一応、休日出勤までは必要なくて、今日のところはちゃんと休めた。ただ、年の瀬が迫ってくるともしかするとそれもあるかもしれないとは言われてる。
今の会社は、定時までに仕事を終わらせられることが優秀とされてて、査定にも影響するそうだ。
こう言うと、わざと終われないほどの仕事を押し付けてきて査定を下げようとしてくる可能性とかを心配されそうだけど、少なくとも今の社長さんだとそれはないって。
そういう、『人として当たり前の誠実さ』を見せてくれるのはすごく助かるし、だからこそ信頼もできるんだと思う。
『ルールは破る為にある!』
なんて、コメディとしてのネタなら笑えても、現実でそれをされたら不信感や反発しか招かないんじゃないかな。特に、権力を持ってルールを決める側にそれをされたら。
企業の経営側とか、政治家とか、学校の先生とか。ルールを守らせようとする側には、自分に厳しい人がなってくれないと本当に困る。ニュースとかでも、大きな企業とか、政治家とか、学校の先生とかがルールを無視して事件になったり、ルール上グレーなことをして疑惑を招いたり、そんな話が当たり前みたいに流れてくる。
何度も言うけど、大人のそういう姿を見てて、子供の頃の僕は、
『大人は信用しちゃいけない』
って強く思うようになったんだ。子供が大人を信頼とか尊敬とかしないのは、大人にその値打ちがないからだよ。口先だけで綺麗事や立派なことを言ってて、でも裏では平気でルールを無視したり汚いことをしてる。
自分は子供の頃や若い頃にそういう大人に反発してたのに、どうして自分が大人になったら同じになるんだろう。
『それが現実だから』
と言い訳して、
『それが大人になるってことだから』
って情けないことを言って自分が馬鹿にしてた大人になってしまって、それで子供が反発すると、
『今時の子供は大人を尊敬しない』
とか言うなんて、本当に格好悪い。自分が信頼も尊敬もできなかった大人になってしまったんなら、子供から信頼してもらおうとか尊敬してもらおうとか思うのは、ただの『甘え』なんじゃないの?。
自分が三十を超えて沙奈子を扶養してるからこそ、あの子から見て『駄目な大人』になってしまいたくないからこそそう思う。
ただ、今の会社でも、年末や年度末についてはさすがに、
『残業せずに済む程度の仕事量に抑えることは難しい』
そうだから、明らかに定時までに終わるのは無理な仕事をお願いする場合には、査定には影響しないって。
でも、前の会社のように、残業ありきで計画を立てるようなのはもう御免だから、『時期的にそういう時もある』くらいなら仕方ないかな。




