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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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八百九十六 結人編 「誠実さに付け込んでる気が」

十二月七日。金曜日。曇り時々雨。




以前にも話した通り、本来ならあまり一人に仕事が集中しないように調整してくれる会社だけど、今回の鷲崎わしざきさんが担当してる分だけは、事情が違った。


クライアントから鷲崎さんを名指しで依頼してきたそうで、でも、とにかく彼女に依頼さえすれば何とかなる的な感じで先方は考えてたらしくて、しかもクライアントもさらに別のところから受けた仕事で、言い方は悪いけど、『中抜き』をするために仕事を受けて、うちの会社に丸投げしてきたみたいだった。


とは言え、どういう形であっても仕事は仕事だから、鷲崎さんはそういう相手方の事情については関知せずにいつも通りに頑張ってたみたいだ。


なのに、うちに仕事を依頼してきた会社は、元の企業との間でコンセプトを煮詰めてなかった上に情報伝達に齟齬があるのか、どこをどう直せばいいのかロクに指示もないままに何度もリテイクを出してきたそうで。


それでも鷲崎さんは真面目だから文句も言わずに頑張ってくれてるそうなんだけど、それにしたって限度ってものがあると思う。


なんだか、鷲崎さんの誠実さに付け込んでる気がしてしまって、僕は正直、イヤな気分だった。


そんな中、いよいよ僕の方も定時までには仕事が終えられなくなってきた。鷲崎さんのことは気になるけど、意識を向けてられない、


「すいません。今日は残業で遅くなります」


山仁さんのところに、沙奈子を迎えに行くのが遅れると電話する。


「分かりました。それでは沙奈子ちゃんはうちで夕食にしていってください」


「本当にご迷惑をおかけします」


「いえいえ、沙奈子ちゃんも一緒だと、大希ひろき千早ちはやちゃんも喜びます。気にしないでください」


「ありがとうございます」


気軽にそう言ってもらえて、僕は本当に本当に救われる思いだった。


それから鷲崎さんにも、今日は夕食は一緒にできない旨をメッセージで送っておいた。


だけどすぐには既読が付かなくて、いつもなら夕食をしてる時間頃にようやく既読になった。でも返信がなかったから、かなりそれどころじゃないのが伝わってくる。


僕も、少しでも早く終わらせるために、得意の『心を閉ざして仕事をこなすだけの機械になり切る』のを発揮して、作業をこなした。


それもあって、幸い、八時前には終わらせることができた。洲律すりつさんを含めた何人かはまだ必死で作業してる。でも、いつまでも山仁さんのところにお邪魔してるわけにもいかないから、


「お先に失礼します」


とだけ声を掛けさせてもらって、オフィスを後にしたのだった。



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