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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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八百九十一 結人編 「自分がこの世界にいてもいいという実感」

十二月二日。日曜日。薄曇り。




今日もまた、千早ちはやちゃんたちが料理を作りに来た。


毎週毎週、こんな風に必ずなんてよく飽きないなと思うかもしれないけど、確かにただの義務感とかでやってたりしたら飽きるかもしれないけど、千早ちゃんたちの様子を見てたら完全に『遊びに来てる』んだ。


料理っていう作業をしに来てるんじゃなくて、沙奈子と一緒の遊びがたまたま『料理』って形になってるんだろうな。


しかも楽しい遊びだから、飽きたりしない。


毎回毎回、きゃあきゃあ歓声を上げながらやってるし。


結人ゆうとくんはそんな様子を冷めた目で見て、自分は一人、スマホで画像とかをチェックしてるけど、先日の、残業でたまに夕食が一緒にできないかもと言った時の『え!?』っていう表情を見てしまった今では、とにかくただの照れ隠しの演技にしか見えなくなってしまった。


それが当たってるかどうかは分からないけど、それでもそんなに的外れでもないと思ってる。


だけど、まだ安心はできない。彼の刺々しい攻撃的な気配そのものは実はまだなくなってない。きっと何かの弾みで爆発してしまうだろうなっていう危うさは今もそのままだから。


そのことについては、これからさらにずっと時間を掛けていかなくちゃいけないんだろうな。っていう予感はある。


だって、彼が受けた苦しみを思えば、それがちょっと他人に優しくされただけで癒えるようなものとも思えないし。


沙奈子や玲那を見ていてもそういう実感しかない。


彼女たちも、今でも心に『闇』を抱えてるのは事実だろうな。


そして、結人くんと同じ危険を秘めている。


たぶんそれは、僕や絵里奈や千早ちはやちゃんや波多野さんや田上たのうえさんも抱えてるもの。


沙奈子や玲那や結人くんに比べれば本当になんてことのない過去でもそれなんだから、結人くんが簡単に変われるわけじゃないのはむしろ当然なんだと僕はいつも自分に言い聞かせる。そうしないと、結人くんの態度を『甘えてる』と思って責めてしまうだろうから。


彼の態度が本当に甘えてるそれなんだとしても、無意識のうちにでもついつい甘えたりしてしまうのは僕だって同じだから、そんな僕に彼を『甘えるな』と責める資格なんてない。


彼はきっと、普通の人の一生分以上、殴られ、蹴られ、罵られ、蔑ろにされ、虐げられてきた。そのとどめに、自分の実の母親に首を絞められて殺されそうになった。


だからもう、彼を殴っても、蹴っても、罵っても、さらに危険を増やすことはあっても、矯正なんてできるはずもないって思うんだ。


彼に必要なのは、


『自分がこの世界にいてもいいという実感』


なんじゃないかな。


沙奈子や玲那が必要としてるものと同じに。



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