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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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八百八十五 結人編 「社会人として筋を」

十一月二十六日。月曜日。やや雲は多いけど雨は降りそうにない一日。




例の劇について、山仁やまひとさんのところに行った時に、大希ひろきくんが、


「あれね、お父さんが書いたんだ」


って教えてくれたから、山仁さんが元になるシナリオを書いたんだって分かった。でもシナリオとして完成させるのにあたって他にも人を通してるから、立場的にはあくまで『原案』ってことになるらしい。


「お恥ずかしい……」


本当はそのことについて一切触れないつもりだった山仁さんは、大希くんにバラされて照れくさそうに頭を掻いた。


だから僕は、それ以上、劇のことには触れないようにした。山仁さんは自身の作品のことについて触れられるのは照れくさくてちょっと苦手らしい。それもあって普段は表に出ることもないそうだ。その気持ちは、僕も分かるような気がする。あくまで仕事としてやってることだから、プライベートとは切り離したいというのもあるんだろうな。


でもだからって作家としての山仁さんのファンだっていう鷲崎わしざきさんが作品のことで話しかけてくるのを邪険にしたりもしない。大人としての対応をしてくれる。


だけどやっぱり苦手なのは事実だから、それを知ってた玲那が、


「織姫ちゃ~ん、山仁さんはプライベートと仕事は切り離してる人だから、あんまりしつこくしちゃダメだよ~ん」


と釘を刺してくれてるから、


「そうですよね。気を付けます」


って、鷲崎さんも節度はわきまえてくれてるようだ。『イラストを担当したい』という話についても、思わずお願いしてしまってからはほとんど口にしてないし。


ただその代わり、会社を通じて、『あくまで仕事として』山仁さんが仕事を受けてる出版社に営業を掛けたりはしてるんだって。なるほどそれなら山仁さん個人には迷惑は掛からないかもしれない。


会社としても、その出版社とはこれまで繋がりがなかったから、新規のルートを開拓するという形にもなって一石二鳥だそうだ。


仕事としてやるならちゃんと筋を通すのはいいと思う。ここで鷲崎さんがしつこく山仁さん本人に食い下がったりしたらやっぱり、せっかくの関係がぎくしゃくしてしまったりするかもしれないし。


大学時代の僕が、鷲崎さんの猛アピールに引いてしまって距離を取ろうとしてたみたいに。


そうだ。節度をわきまえずにしつこくするのってストーカーと同じだと思う。鷲崎さんも大学時代の失敗から学んで、でも『山仁さんの作品のイラストを担当したい』という自分自身の想いも大切にするために、社会人として筋を通そうとしてるんだろうな。



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