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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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八百八十二 結人編 「絵本とか昔話とかは」

『やめろ!。やめるんだ!』


暴れようとする恐竜を説得するのは、自衛官たちの上官役だった千早ちはやちゃんの役目だった。


だけどその説得は届かなくて、恐竜は暴れ始めて、上官役の千早ちゃんが、


「止むを得ない!、撃て!。あいつを止めるんだ!!」


と自衛官役の子たちに命令した。


そしてその命令に従って自衛官たちが銃を放つと、恐竜はその場にばったりと倒れ、そのまま息を引き取ってしまったのだった。


「バカヤロウ…、撃たせるなよ。バカヤロウ……!」


動かなくなった恐竜を見下ろしながら、千早ちゃんが悔しそうにそう言った。大希ひろきくんたち自衛官役の子も、銃を足元に置いて、悔しそうに泣いていた。人間たちを守るために仕方なく撃ったけど、彼らも本当は撃ちたくなかったっていうことだった。


その時、恐竜は魂だけになって立ち上がり、それを、最後まで恐竜を気遣ってた沙奈子たちが、


「恐竜さん、帰ろう。あなたの世界に」


と、その魂を恐竜の世界へと送り返して、そして恐竜の世界で、今度こそ普通の恐竜の子供として生まれて、凛々しく立ったところで幕となった。


しん、と会場が静まり返る。その中で、すすり泣く声が聞こえてくる。低学年の子だけじゃなく、高学年の子、それどころか大人たちの中からも。


正直、僕も胸が詰まる思いだった。小学生がやる劇にしては切な過ぎるくらいの気さえする。


だけどそれだけに、伝えたい思いがある気がした。


パラパラと拍手が鳴り始め、それが波のように会場に広まっていくのが分かった。


僕の隣で鷲崎わしざきさんも泣きながら拍手してた。もちろん僕も拍手を送る。


『これが、小学校最後の発表会か……。立派だったよ、沙奈子……』


役どころとしてはモブに等しいものだったけど、ちゃんとした役者のそれに比べれば子供らしい拙い演技だったけど、それでも彼女は自分の役目をしっかりと果たしてたと思う。


千早ちはやちゃんも、大希ひろきくんも、そして結人ゆうとくんも。




「こんな全力で泣かせに来るとか、ズルいですよね~…!」


帰り道、まだ余韻を引きずってる鷲崎さんが、ハンカチで涙を拭いながらそう言った。その気持ちは僕にも分かる気がした。まさか小学校の発表会の劇でここまでなんて、今時は珍しいかもしれないな。


ただ、絵本とか昔話とかは、元々、悲しい結末だったり辛い結末だったりするものは決して少なくない。それを、


『読んだ子供がショックを受けるから』


ということでハッピーエンドに書き換えられたりというのはよくある話だと僕も聞いた。


それを批判する人は多いみたいだけど、寓話とかがその時々の社会情勢とかに合わせて書き換えられること自体はよくあることだろうから、今に始まったことじゃないはずだし、僕はそれ自体は別に構わないと思ってるんだけど、それでも辛く悲しいお話も残り続けるだろうから、そういうものをどう受け止めるかということを学ぶ機会も失われることはないんじゃないかな。



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