八百七十五 結人編 「トラブルを起こすとしたら」
十一月十七日。土曜日。今日も晴れ間も覗く薄曇りの一日。
結人くんの雰囲気が少しずつ和らいできてるのは間違いないと思う、それは事実なんだ。
ただ、だからと言って油断しようとは思わない。このまま順調に何事もなくなんて行くと思うほど、僕は人間というものを信用してない。彼にとってなにか『許せないこと』が起こった時にはカッとなることだって十分に有り得ると思う。
そして今の時点での懸念材料としては……。
鷲崎さんと喜緑さんのことかな。二人が仲良くなってくれるのは結構なことだけれど、たぶん、結人くんにとっては、
『自分にとっての唯一の味方である鷲崎さんを取られる』
という認識になる可能性はかなり高いと思うんだ。そうなるともう、彼も黙ってはいられない。
その辺りを喜緑さんがしっかり対処できれば任せておけるけど、実際に彼と普段から話もしてる玲那の印象としても、残念ながら、
「正直、今のとっくんだとかなり難しいかなっていうのが本音の意見だよね。
彼は、オタクでロリコンなのを差し引いても真面目で誠実でいい人だけど、なにしろ経験不足過ぎる。修羅場を踏んだ数が絶望的に足りない。家庭環境も、私たちに比べればいい意味で平凡みたいだね。その上で対人関係が苦手、暴力的な雰囲気はさらに苦手、これで結人くん相手に上手くやれとか、無茶振りもいいところだと思うよ」
とのことだった。
彼のことを決してバカにするつもりはないんだ。ただ単純に客観的に見て、今の彼には荷が重いというだけで。
僕たちが結人くんのことを受けとめられるのは、いろんな経験をした上でそれを活かせてるからであって、努力とか根性とか優しさとか、その手の精神論で何とかしてるわけじゃないんだ。
それで考えると今の喜緑さんだと上手くやれなくて当然なんだ。結人くんみたいな過去を持つ人とどう向き合えばいいのかっていう根本的なところで経験不足だから。
しかもまだ大学生だし。
これがせめて社会人で、いろんなタイプの人と接してきてればまだしもかなって思うんだけど。
彼にとっては、最初のハードルが結人くんになるってことかな。これは相当厳しい気がする。
僕がもし、沙奈子と一緒に暮らした経験もなしで鷲崎さんと付き合ったとして結人くんと上手くやれたかって言われたら、
『絶対に無理!』
と自信を持って言えてしまう。
それくらいに難しいことだっていう実感がある。
そして、結人くんがトラブルを起こすとしたら、鷲崎さんと喜緑さんの関係だっていう予感があるんだ。




