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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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八百七十二 結人編 「大きな声で挨拶をしましょう!」

十一月十四日。水曜日。時折晴れ間も覗く雲の多い天気。




朝晩は結構寒くなってきて、自転車で通勤するには手袋とマフラーが欲しくなってきた。明日、いつものスーパーに買い物に行った時にでもついでに買ってこようかな。あと、厚手のコートもほしい。バス通勤だった時には、ヒーターを効かせた満員のバスの中じゃ、たまに暑いくらいだったけど、自転車でも今はまだ走り出してしばらくしたら汗ばんでくるくらいだけど、本格的に寒くなってくると、きっと辛い。それに備えないとね。


自転車通勤も大変だなとは思うけど、バス通勤もやっぱり大変だったわけで、特に夏の暑い時期に雨が降ったりした日のあれはまさに『筆舌に尽くしがたい不快さ』だったし、それぞれ一長一短ってことなんだろうな。


それに僕は割と、夏は暑いし冬は寒いってことを受け入れられるタイプだから、そんなに気にしてるわけでもないんだ。


最近は慣れてきて、それなりに気持ちいいなとも思えてきてるし。


もっともそれも、真冬になったらさすがに厳しいかもしれないけどさ。


「私は先輩と一緒ならどっちでも大丈夫です♡」


鷲崎わしざきさんはそう言ってくれる。


今日も会社の方で打ち合わせがあるそうで、一緒に出勤することになった。


「ひゃ~っ!。自転車で走ると風が冷たいですね~!」


僕の後ろを走ってる彼女の声が届いてくる。確かに、真冬の痛くなるような冷たさに比べればマシだけど、寒いのは本当だった。


「だけど、真冬になるとそれこそ皮膚が切れそうなくらい寒くなるよ」


そう応えた僕に、


「ひぃ~っ!。考えるだけで辛そう……!。真冬の間だけはバスで通おうかな~!」


だって。その気持ちも分かる気がするな。


僕も、頑張れるところまでは頑張ってみようと思うものの、ホントの寒い時期になると耐えられるかどうか自信がない。鷲崎さんの言う通り、しばらくはバス通勤になるかもしれないな。


それでも今日のところは無事に会社に辿り着くと、他にも自転車通勤してる人はいて、


「おはようございます」


と自転車置き場で挨拶を交わしたりした。


ただ、中には自分のことだとは思わなかったのか、返事をしてくれない人もいる。


本当はあまり褒められたことじゃないのかもしれないけど、僕だって前の会社では挨拶なんて本当に辛うじてしてるだけだったから、あまり人のことは言えないんだよな。


そんなわけで、返事がなくても気にしないことにする。


それにこの会社に集まってくる人は、たぶん、割と『大きな声で挨拶をしましょう!』的な雰囲気が苦手って感じの人が多かったりなんじゃないかなって気もするんだ。



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