八百六十四 結人編 「守りたいものが一致したから」
十一月六日。火曜日。昨夜から降り始めた雨は、朝にはやんでいた。しかも昼頃からは気持ちいい感じの秋晴れになった。
鷲崎さんと喜緑さんが親しくなっていく一方で、結人くんの存在は、今の二人にとっては難しいものになってる気がする。
鷲崎さんはともかく、喜緑さんにとってはすごく難しい相手だと思うんだ。
正直、僕だって沙奈子と暮らした経験がなければ到底関わり合いになりたくもないタイプなのは事実だし。
だから喜緑さんに結人くんのことを任せるのは、お互いのためにならないって気もしてしまう。
鷲崎さんもその辺りを心配していて、
「喜緑さんはいい人ですけど、今の結人とは相性最悪かなって思ってます。それに、やっぱりまだ頼りないですよね。大学生だから当然なんですけど。
今にして思えば、大学生だった頃って、自分ではもうだいたい何でもできるって気分だったのに、振り返ってみると本当に頼りなくて子供だったなって。
だから喜緑さんだって、あと十年もすればもしかしたらって思うんです。
ただ、それまで結人と上手くやれるようになるのかなって考えると不安しかないな~っていうのが偽らざる気持ちって感じですね」
それは、今の時点では付き合うとかそういうところまでは考えられないけど、『もし仮に』という意味で考えた時、結人くんの存在が障害になるっていう意味だった。
だけど……。
「でも、だからって結人のことが邪魔だって言いたいわけじゃないんです。それに、結婚と結人のどちらを取るって聞かれたら、私は結人を選びます。
と言うかそんなことを聞いてくる男性は選びません」
鷲崎さんはきっぱりとそう言い切った。
『そんなことを聞いてくる男性は選びません』
その言葉を彼女の口から聞けて、僕は正直ホッとした。
僕がもし、女性から同じように、
『沙奈子ちゃんと私のどっちを取るんですか?』
みたいなことを聞かれたら、きっと、沙奈子を選ぶ。そんなことを聞いてくる女性は選ばない。絵里奈はそんなことを聞いてこなかった。
それどころか、本音を言えば、絵里奈にとっては沙奈子が『本命』で、僕の方が、
『沙奈子ちゃんを守る為に必要な人』
扱いだったのは僕も承知してる。僕はそれを分かった上で絵里奈と結婚した。だって、僕にとっても絵里奈は、沙奈子を守る上ですごく頼りになる存在だったから。
『そんなものは打算だ!、愛じゃない!』
って言う人もいるかもしれない。だけど僕と絵里奈は、そういう形で価値観が一致したんだ。
『守りたいものが一致したから結婚した』というのが打算だと言うのならそれでもいい。
でも、そういう部分が一致しないと、結婚って難しいっていう気しかしないんだ。




