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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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八百六十二 結人編 「抱えて生きていくことになる」

十一月四日。日曜日。曇り。




結人ゆうとくんの様子はどうかな」


昨日、喫茶店で顔を合わすなり、玲那がそう聞いてきた。ビデオ通話の画面越しには普段から見てるけど、やっぱり直接見てる僕とはどうしても空気感みたいなものまでは掴めないということみたいだ。


「うん、かなり落ち着いてると思うよ。愛想の悪さは相変わらず知っての通りだけど、危険な感じはしないな」


「そっか」


僕の返事に満足したみたいに笑顔になって、


「沙奈子ちゃんから見てもどう?」


と、今度は沙奈子に問い掛けてきた。


「お父さんの言う通りだと思う…」


「学校でもどう?」


「普通……」


相変わらず沙奈子の言葉は端的で無駄がない。それに、彼女の表情が何より雄弁に語ってる。嘘がないことを。


「沙奈子ちゃんがそう言うんなら間違いないよね」


玲那のその言葉はもちろん、僕と沙奈子がそれぞれ使ってるイヤホンから聞こえてくるものだ。この会話の仕方もすっかり慣れたな。


玲那は言う。


「結人くんもすっかり今の環境に慣れたってことだって私も思う。だけど…」


『だけど』と言った彼女の顔はキュッと締まったものになった。


「それでも、彼が抱えてるものを考えたらまだまだ油断はできないよね。


なにしろその実例がここにいるんだからさ」


玲那が何を言いたいのか、僕にはすぐに分かってしまった。当然、絵里奈も分かってる。たぶん沙奈子も。


その上で、玲那は続けた。


「絵里奈やお父さんや沙奈子ちゃんに囲まれて幸せだった私でも、あんな『事件』起こしちゃうくらいだからさ。たぶん、一生、それは抱えて生きていくことになるんだと思う、私も、結人くんも、それにきっと沙奈子ちゃんも……」


『抱えて生きていくことになる』


それは間違いないと僕も思う。


なにしろ玲那や沙奈子や結人くんがした経験に比べればぜんぜん大したことのないはずの僕でさえ、両親や兄のことを思い出せば不穏な気分になってしまうのは今も変わらない。もちろん『事件』なんか起こしたくないと思ってるけど、玲那がそうだったように、悪い偶然が重なったりしたら自分を抑えきれなくなる危険性は、そういう経験がない人に比べれば、確実に危険度は高い。


だからこそ、幸せにならなきゃいけないんだって思ってる。幸せに穏やかに生きていられたら、自分を抑えきれなくなるまで追い詰められる危険性もずっと小さくなるはずだから。


自分が幸せになることが、他人を不幸にしない一番確実な方法なんだ。


これまでずっと連鎖してきた不幸を、僕たちの代で途切れさせたいと正直思う。


たとえ誰に笑われたって、それが僕たちの幸せなんだ。



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