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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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八百六十一 結人編 「ちょっとだけ大人びて」

十一月三日。土曜日。時々晴れ間もある薄曇りの一日。




相手が鷹揚としてたり泰然自若としてたり、余裕のある態度を見せると、それを『馬鹿にされた!』と言って怒る人がいる。


だけどそれって、『卑屈』そのものだよね。


『馬鹿にされる原因が自分にある!』ってことにして、『自分が悪い』ってことにして卑屈になってることの裏返しとして勝手に腹を立ててるんじゃないかな。


だって、自分に馬鹿にされるような理由がないと思えば、明らかに馬鹿にするような態度を取ってない相手に『馬鹿にされた』なんて思わないはずだし。


『馬鹿にされるような原因が自分にあると決めつけて思考停止してる』=『卑屈になってる』


って感じかな。


館雀さんも、口では『お前が悪い!』とイチコさんたちを罵ってたけど、イチコさんが鷹揚とした態度を見せてるのを、


『馬鹿にしてんの!?』


みたいな感じで言ってたと思うけど、第三者的な立場だった僕の目から見れば、館雀さんを馬鹿にしてるのはむしろ館雀さん自身だった気がして仕方ないんだ。


館雀さんは自分で自分を貶めて、そして感情的になって怒ってたんだ。


少なくとも僕の目にはそう見える。


何を幸せだと感じるのかは人それぞれだし、館雀さん自身は自分を不幸だとは思ってなかったかもしれない。だけど僕はあんな生き方は絶対に御免だよ。あんな生き方で幸せを感じることはたぶん絶対に無理だ。


だけど同時に、館雀さんが自分でその生き方を選ぶなら、それに対して、


「そんな生き方は不幸だからやめた方がいい」


とは、本人に対しては面と向かって言わないでおこうと思ってる。きっと大きなお世話だろうから。


だって昔の僕も、心を閉ざして耳を塞いで、僕に好意を向けてくれてる鷲崎わしざきさんの気持ちからも目を背けて、


『他人と一切関わらないで自分の世界ん閉じこもっていれば平穏に生きられる』


と信じ込んで、それ以外の生き方なんて考えもしなかった。


そんな僕に、『信じられる人もいる』と教えてくれた絵里奈と玲那に、今日も会いに行く。


「いってらっしゃい♡」


鷲崎さんに見送られながら、沙奈子と一緒に。


今日は、鈴虫寺近くの喫茶店に行く。


もっといい天気だったら気持ち良かったかもしれないけど、天気が良すぎると今度は意外と暑かっただろうから、雨さえ降らなければ曇りくらいでちょうどいいのかな。


そんなことを考えながら、沙奈子と一緒に歩く。


もう何度歩いたかも分からない、そしてこれから何度歩くことになるかも分からない道を。


「雨じゃなくてよかったね」


そんな風に尋ねる僕に、


「うん」


と彼女は頷いてくれた。


僕を見るその目が、ちょっとだけ大人びて見えた気がしたのだった。



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