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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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八百五十五 結人編 「遊びに行くだけなら」

十月二十八日。日曜日。今日もまずまずの天気。




「イチコが推薦入試で合格を決めました」


「え?。ホント!?」


「わあ!、おめでとうございます!」


いつものようにお昼を作るためにやってきた千早ちはやちゃんと大希ひろきくんの付き添いでやってきた星谷ひかりたにさんが、腰を落ち着けると同時にイチコさんが大学に合格したことを告げてくれた。


すると鷲崎わしざきさんまでパアッと顔を明るくして、まるで自分のことのように喜んでくれたんだ。


でも、そうかあ。イチコさんが合格一番乗りなんだな。


星谷さんは微笑みながら言った。


「イチコの成績なら問題なく合格できるはずでしたが、彼女もはっきりと結果が出るまでは不安だったようです。普段は鷹揚とした態度の彼女が自信無げにしている姿は、不謹慎とは思いましたが新鮮に感じました。彼女も人間だったのですね」


「へえ、そうなんだ。ちょっと意外だな。でも、いろんな一面があるのは人間だったら当たり前か」


思いがけない話に、僕もついそう応えてしまった。そこに玲那が、


「それは見てみたかったな~。ウシシ♡」


って悪戯っぽく笑いながら、ビデオ画面の向こうで言う。


すると星谷さんは言ったんだ。


「実はイチコは、二年生までは勉強に対してモチベーションが維持できずに、成績があまりふるわなかったのです。自身の将来像が掴めていなかったのでしょう。ただ漠然と『いずれ大人になるんだ』程度にしか思っていなかったそうです。


ですが今年の一月頃、三年生になる直前に、お父さんから言われたそうです。


『ただ目標もなく遊びに行くだけなら、大学には行かない方がいい』


と。そう言われたことで、当たり前のように大学に行くんだと思っていたのが必ずしもそうじゃないというのを感じ、具体的に『大学に行って勉強したい』と思えるようになったのだとか。


今は、『大学まで行くのが当たり前』の世の中になりつつありますが、大学に遊びに行っている人もいるようですが、義務教育ではないそこは、やはり『学びの場』であることを自覚しないといけないのだと私も再度教えられた気がします」


それを聞いた鷲崎さんが神妙な顔で、


「そこで『遊びに行くだけなら行かない方がいい』ってはっきり言えるのって立派だと思います。誰もが当たり前みたいに行くようになった今の世の中で、親の立場で子供にそこまではっきり言えるのは、明確な人生観があるからなんでしょうね。


今は、大学に行くこと自体が目標や目的になってしまってるみたいなところがあって、でも本当は、目標や目的があるから、それを実現するための手段として、それに到達するための通過点として大学に行くハズなのに、みんな忘れてしまってるのかもしれません」


って言ったのだった。



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