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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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八百五十四 結人編 「イライラして冷静さを失った大人を」

十月二十七日。土曜日。昨日から降り出した雨は午前中にはやんで、午後からはすっきりした天気になった。




今日も絵里奈と玲那に会いに行く。


その前に、沙奈子と結人ゆうとくんは勉強だ。


と言っても、二人とも別に話をしたり教え合ったりって形じゃない。それぞれが自分のやりたいように自分で勉強してる感じかな。


僕と鷲崎わしざきさんはただそれを見守ってるだけで、口出しはしない。


まるまる二年分、勉強が遅れてた沙奈子だけど、今じゃ『そんなことあったの?』っていうくらい、むしろ先に進んでるほどだった。


僕が教えなくても、ドリルに書かれてる問題の解き方を自分で読んで理解してサクサクと進めていく。


一方、結人くんはと言うと、確かに沙奈子ほどじゃないんだけど、僕たちが教えようとしなくても例題とかを何度も見て自分で解いていってた。


彼にしてみると、他人に、特に大人にあれこれ言われるのは嫌なんだろうな。だから自分で考えて自分で理解しようとするんだと思う。そして僕たちは、そんな結人くんのやり方を認めて、任せてる。


彼は負けず嫌いなところがあるから、間違ってるとそれが納得できなくて、でも他人に聞くのも悔しいみたいで、何が間違ってるのか自分で理解しようとするみたいだ。


それを見てても分かる。彼は頭も決して悪くない。むしろ平均以上の知能はあるんじゃないかなっていう印象もある。これまで勉強に興味が持てなかったからやらなかっただけで。


いや、それ以上に、教えようとして押し付けると反発してやる気をなくす感じかな。だから彼のやりたいようにやってもらったらいいんだ。


彼に信頼されてない僕があれこれ口出しするのはむしろ逆効果だと思う。


現状で上手くいってるなら、敢えて余計なことはしない。


僕たちが口出ししてこないことが分かってきてるから、彼も大人しくしてくれてるんだろうなっていう気がする。


これが、彼に信頼してもらうための足掛かりになってくれれば。


じれったいと思う。まどろっこしいと思う。傍から見てればイライラするくらいかもしれない。だけど自分の思い通りにならないからってイライラする姿を見せるのは、少なくとも彼の場合は逆効果だろうな。


彼はむしろ大人をイライラさせたいんだ。イライラして冷静さを失った大人を嘲笑いたいんだ。


これは、彼と僕たちとの根競べでもあるのかもしれない。だったら大人としてそれに負けるわけにはないかないね。


彼の知らない大人の姿を見せないといけない。子供の挑発に簡単に切れて右往左往する大人じゃない姿をね。



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