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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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八百五十三 結人編 「すっかり見かけなくなってる」

十月二十六日。金曜日。最近では珍しいくらいに本当に爽やかな秋晴れ。


と思っていたら昼過ぎから曇り出し、夕方には雨も降り出して、夜には本降りになった。




最近、結人ゆうとくんと鷲崎わしざきさんの、


『おデブ!』


『デブじゃない!』


のやり取りを、すっかり見かけなくなってる気がする。誰もそれをやめるように強く言ったこともない。と思う。


それなのに結人くんはそれを言わなくなってきたんだ。


もしかするとそれは、鷲崎さんが『おデブ!』って言われても反応しなくなったからかもしれない。それまでは『デブじゃない!』と言い返していたのを、


「ん?、どうしたの結人?」


って聞き返すようになったことで、『言うだけムダだ』って思うようになったのかもしれない。


…いや、ちょっと違うかな。『噛み合わなくなった』って言った方がいいのかも。もしくは、『ノリが合わなくなった』、かな。


『おデブ!』


『デブじゃない!』


のやり取りって、傍から見てるだけなら本当に『掛け合い漫才』みたいにも見えるくらいに息ぴったりだったんだ。それが、鷲崎さんの方がノッてこなくなったことで結人くんの方も面白味がなくなった感じなのかも。


そういうのがなくなったことを『寂しい』と感じたりする場合もあるかもしれないけど、正直、今の結人くんのそれは『レクリエーション』のそれを超えてる気がする。少なからず鷲崎さんのことを馬鹿にして罵ってるニュアンスが僕にも感じられるんだ。


だったら、今の状態でそれを続けるのは、結人くん自身のためにも良くない気がする。


『ノリでなら人を罵っていい』


っていうのを学び取ってしまう気がするんだ。


『おデブ!』


『デブじゃない!』


のやり取りをするにしたって、お互いに笑顔でできるんならそれもアリなのかもしれなくても、少なくとも再会した頃の鷲崎さんはそう言われるのを軽く受け流せていないのが僕にも分かってしまってた。


だけど、『お母さんになりたい』と言ってからの鷲崎さんは、結人くんのそれを受け流すことができてると、僕にも見えた。


これでもし、結人くんの方が、罵るためじゃなく笑顔でそれを言えるようになったら、そのやり取りも本当にただのレクリエーションになるのかもしれないな。


いつかそうなれた時、鷲崎さんと結人くんは本当の家族になれるのかもしれない。


僕は、そうなれるための手助けをしたいんだ。


ここまで見てきて確信できた。結人くんは決して悪い子じゃない。自分の感情や思いを上手く自分の中で処理できなくて、表現できなくて、それが彼の中で煮え滾ってる大人や世の中への恨みと結びついてしまってるんじゃないかな。


それが当たってるかどうかは分からない。


だけどそれを手掛かりにして、慎重にやっていきたいとは思ってるんだ。



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