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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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八百四十五 結人編 「僕たちに対してはそんなこと」

十月十九日。金曜日。今日もいい天気だ。朝は結構肌寒かったけど。




相手のことを理解するためによく見るよりも、自分が勝手に想像してるイメージを押し付けてしまう方がずっと楽なのは確かだと思う。


だけどそれは結局、『楽な方を選びたい』っていう甘えだと思うんだ。


そうやって甘えてる人が『ああしろこうしろ』と押し付けてくるから反発してしまうんだと思う。子供だってそういうの、よく見てると思うよ。


『子供だからそんなことにまで頭が回るはずがない』っていうのがもう、自分が勝手に想像してるイメージだから。


確かに気付かない子もいるかもしれないけど、気付く子は気付くんだよ。そして沙奈子や結人ゆうとくんは、そういうことに敏感な子だと思う。


日が短くなってまだ七時前だけどすっかり暗くなってから帰ってきて、今日も沙奈子と一緒に用意をして、僕と沙奈子と鷲崎わしざきさんと結人くん、そしてビデオ通話画面の向こうに絵里奈と玲那が揃ってみんなで一緒に夕食にする。


「いただきます!」


そう掛け声をかけるのは玲那と鷲崎さんの役目だった。


「いただきます」


それに、僕と沙奈子と絵里奈が応える。


星谷ひかりたにさんが企業と協力して作ってくれた玲那のためのアプリは改良を重ね、その度に自然な音声に近付いていってると思う。


もちろん、今でも機械的な不自然さは残ってるけど、玲那がすごく上手に使うし、聞いてる僕たち自身も慣れてきてるから、普段は本当に意識させられることもなくなった。


結人くんも、玲那の声のことについては何も言わない。


彼が本当に悪意で他人を傷付けることを望むような子なら、玲那の声のことなんかそれこそ絶好の攻撃材料なんじゃないかな。


それなのに彼はとりたてて玲那の声のことを馬鹿にしたりしたことはない。内心では『変だ』とか思ってたかもしれなくても、面と向かって馬鹿にするようなことを言ったことはないんだ。


世の中には、ことさら、他人のそういう部分をあげつらって馬鹿にする人がいる。身体的特徴や、家庭環境や、その人が抱える背景を笑いものにして攻撃するんだ。


しかもそういうことをする人の多くが、それを『言論の自由』とか『表現の自由』とか『当然の権利』とか言って、自分の行為を正当化しようとする。自分が恥ずかしいことをしてると認めようとしない。恥ずかしいことをしてるという自覚がないから反省もしない。


そういう人は、一体、誰からそんなことを教わったの?。そういう人たちの親は、それが正しいことだと、真っ当なことだと教えたの?。


僕は沙奈子がそんなことをしていたら、


『それは良くないことだよ。沙奈子がそんなことをするのを見るのは悲しい』


って言うよ?。


そういうことをしてる人たちの親は、自分の子供がそんなことをしているのを見てどう思うの?。


『よく言った!』


って褒めてくれるの?。


僕には、まるで理解できないよ……。


そして、結人くんは、少なくとも玲那に対しては、僕たちに対してはそんなことしないよ。



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