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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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八百三十九 結人編 「どこかいつもと違ってれば」

十月十三日。土曜日。今日はまあまあ日差しもあっていい天気だったけど、朝はかなり肌寒かった。




結人ゆうとくんのことも気になるけど、もちろん僕としてはそれ以上に沙奈子のことをちゃんと見たいと思う。


表情、仕草、僕と目を合わした時に不自然に逸らしたりしないかとか、話す時の口調や声の調子とか。そういうものすべてを含んだこの子が放つ気配にしっかりと意識を向ける。


そういうのがどこかいつもと違ってれば、『何かがあった』サイン。


沙奈子は決して饒舌に話をするタイプじゃないけど、この子のことをよく知らない人は『分かりにくい子』と思うかもしれないけど、決して隠し事や嘘が得意な子じゃないんだ。いつもと違うことがあれば、特に何か嫌な思いをすることがあればすごく態度に出るんだ。


そういう時、僕は『何かあったの?』と問い掛ける。決して詰問するような、問い詰めるような言い方はしないように気を付けながら。するとちゃんと『あのね…』って話してくれる。


もし、話してくれない時があるとすれば、それは問い詰めちゃいけないことだと思う。きっと僕には話しにくいことだろうから。いくら親でも、子供の心の中にまで土足で踏み込むようなことはしちゃいけないんじゃないかな。親がそんなことをしてると、その子供も、他人の心に土足で踏み込むような人になってしまう可能性が高くなってしまう気がする。


もちろんそれは、必ずそうなるっていう意味じゃない。僕がそうだったように、自分がそうされて嫌だったからやらないようにしようって思えるようになる場合もあると思う。


……いや、そんな単純な話じゃないかな。僕が両親や兄を反面教師にできたのは、そんな風に思えるようになる『出逢い』があったおかげだ。もしそれがなかったら、僕も、『両親や兄のようにはならないようにしよう』と考えながらも、実際には自分でも気付かないうちに同じことをしてるって状態になってしまってたかもしれない。


そうか…、反面教師にできるかどうか自体が、『そうなれるきっかけがあってこそ』なのかもしれない。


やっぱり人間は、自分一人の力で生きられるわけでもないし、自分一人の力で成長できるわけでもないんだ。


『自分は誰の力も借りずに一人で成長して生きてきた!』


なんてのは、ただの幻想なんだろうな。『そう思いたい』っていうだけの。そんな風に思わずにいられないっていうのがもう、追い詰められてるってことなのかもしれない。




と、そんなことを思いつつ、絵里奈と玲那に会いに行く。僕が今の僕になれたのは、二人のおかげもあるって実感しながら。



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